キムチいろいろ
韓国の一般家庭の食事では常に2〜3種類のキムチが食卓に並べられるのが普通のようです。
「ペーチュキムチ」「ムルキムチ」「カクトゥギ」の3種類のキムチを出すのがいわば基本形で、おかずを多くつくる家ほど常備しているキムチの種類は多いといいます。
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基本キムチ3種の中で日本で一番浸透したのは白菜を漬ける「ペーチュキムチ」でしょう。(関連:「キムチと唐辛子と白菜」)
しかし、日本で売られている七割以上の白菜キムチは「浅漬け白菜キムチ」であり、韓国ではこの浅漬けキムチを「コッチョリキムチ」と呼んで十分に発酵させたキムチとは区別しています。
「コッチョリ」の「コッ」は「表だけ」、「チョリ」には「漬ける」という意味があり、つまりは短い時間漬けて作られる浅漬けを指している言葉なのです。
コッチョリキムチは暖かい季節に和え物のようにして作られ、夏場にはきゅうりなどが使われたりします。
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「ムルキムチ」はもともと「ナバッキムチ」と呼ばれていましたが、日本への輸出用ナバッキムチに「水キムチ」の名が付けられたことから、しばらくして韓国でもナバッキムチが水キムチを意味する「ムルキムチ」という名で呼ばれるようになりました。
薄塩で漬け込まれるためムルキムチは色よく漬け上がり見た目がきれいなことから、李朝の宮廷料理でしばしばつくられたキムチです。
乳酸により発酵して酸味を帯びた漬け汁に薬味が加えられたものが飲まれたり、この漬け汁と牛肉からとれたスープを合わせたものが冷麺のスープに用いられたりもします。
ムルキムチは江戸時代の日本でも作られたことが当時の文献から分かっています。
江戸時代の日本ではムルキムチを「キミすい」と呼んでおり、1711年に朝鮮から来日した使者のために日本側の接待役がキミすいを用意したという記録が残されているのです。
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日本では「カクテキ」とも呼ばれる「カクトゥギ」は大根だけで漬けたキムチです。
カクトゥギを作る際には材料の大根をサイコロ状に切りますが、大根を切るときに出る音が「ガックトック」と鳴る感じがすることが名前の由来になったといわれます。
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韓国には数十種類のキムチがあるといわれています。
多様なキムチがつくられるようになった理由の一つに地域による寒暖の差があります。
冬期が長い朝鮮半島北部の平安道では、発酵させた米のとぎ汁に丸ごとの大根などを漬けて作るムルキムチの一種のトンチミ(冬漬)や白キムチを意味するペッキムチなど、塩気を抑えたキムチが好まれ、塩辛を入れたキムチはあまり作られません。
気温が低い地域では保存性を高めるために入れる塩の量を抑えることができ、素材の旨味や漬け上がりの色を重視した塩をあまり使わないキムチが多く作られたのだと考えられます。
平安道よりも北に位置する咸鏡道ではカレイや明太(ミョンテ)の名で呼ばれるスケソウダラなどの魚類を漬け込んだものが作られたり、開城(ケソン)には「ポサムキムチ」というキムチなどもあります。
「ポサムキムチ」の「ポ」とは「風呂敷」のことで、「サム」には「包む」という意味があり、ポサムキムチとは具材を白菜で包んで漬け込んだキムチのことです。
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朝鮮半島南部では腐敗を防ぐためにとうがらしやにんにくが多用され、少し塩辛い味のキムチが作られるのが特徴です。
韓国でも北の寒い地域である江原道などでは強い塩味のキムチは好まれず、唐辛子もあまり使われませんが、暖かい地域の全羅道や慶尚道などではキムチにとうがらしや塩が多く用いられ、アミやヒシコイワシ、グチの塩辛などを入れた濃厚な味のキムチが好まれる傾向があります。
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とうがらしやにんにく、果物、塩辛などと一緒に具材を漬け込むと複雑な味わいのキムチを作ることができます。
日本人が1ヶ月に食べる塩辛の量は平均200グラム程度ですが、韓国ではキムチを漬けるときに塩辛やその汁を入れるため、平均して大人1人が1ヶ月に約1キロの塩辛を食べるといわれています。
塩辛を使う場合、腐敗防止のために通常はとうがらしも一緒に漬けられますが、それでも塩辛入りのキムチは塩辛を入れないものよりも保存性が低く、漬けてから3ヶ月も経つと味が落ちてしまうため、11月末に漬けた塩辛入りキムチは2月の旧正月より前には食べきってしまうのが普通です。
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「韓国のハワイ」の別名を持ち暖かい地域が多い済州島ではあまりキムチが食べられてきませんでした。
野菜に付いている乳酸菌が促す発酵でキムチはつくられますが、乳酸発酵が進みすぎると酸っぱいキムチができてしまいます。
済州島は周りが海で囲まれ新鮮な魚介が豊富に獲れることから、発酵食品をつくって食物を長期保存する必要がなかったという事情もありましたが、気温の高い済州島では緩やかに乳酸発酵を行うことが難しかったこともこの島でキムチ作りが盛んにならなかった理由ではないかと考えられています。
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ところで、韓国では11月末に一斉にキムチを漬け始める「キムジャン」という習慣があります。
昔はキムジャンの季節が到来すると、腰の高さほどもある大きな袋に詰められたキムチ漬け用のとうがらしやにんにくなどが路上で販売され、それらが何袋といった単位で家庭で用いるために買われていました。
貴重な塩を節約するために、キムチの下漬けで必要となる塩水は近所で使い回され、そのために隣近所でキムチを漬ける日を少しづつずらすように調整することもあったといいます。
本格的な冬の到来前に大量のキムチ漬けが作られるキムジャンの習慣ができたのは、昔は露地栽培の野菜しかなく、春野菜が出荷される直前の3月頃までキムチを食べて野菜不足を補う必要があったからです。
最近の韓国では冬期でもハウス栽培の野菜が流通するようになり、多量のキムチを漬けることができないマンションが増えた住宅事情もあって、キムジャンにキムチを漬ける人は減り、市販品の消費が増えているようです。
韓国では、キムチ漬けの材料を買うための費用として「キムジャンボーナス」が支給されていましたが、キムジャンの習慣が都市部で廃れていく現在、キムジャンボーナスという名目の賞与も次第になくなりつつあるようです。
<参考書籍>
黄慧性(2005)『韓国の食』平凡社
周 達生 (1994)『中国食探検—食の文化人類学—食の文化人類学』平凡社
朝倉敏夫(2005)『世界の食文化〈1〉韓国』農山漁村文化協会
鄭大声(2001)『焼肉は好きですか?』新潮社
鄭大声(2004)『焼肉・キムチと日本人』PHP研究所
NHK取材班(1990)『人間は何を食べてきたか カレー、醤油』日本放送出版協会
スー シェパード(2001)『保存食品開発物語』文藝春秋
小泉武夫 (2000)『漬け物大全—美味・珍味・怪味を食べ歩く』平凡社
<キムチ関連>
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