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2007/02/04

醤油と金山寺味噌

日本の漬物や塩辛、納豆などの発酵食品の起源を辿っていくと中国の醤(ショウ)にまで遡ることができます。(関連:「塩辛は調味料」「納豆と納豆菌」)
醤(ショウ)とは材料に塩や酒を加え発酵させた調味料のことです。
紀元前3世紀という昔に、中国には100種類以上の醤があったという記録が残されているそうです。
醤がつくられ始めた頃は動物の肉や魚肉が材料として使われていましたが、後に穀物などの植物性の材料も使われるようになり、そのような醤が醤油の元祖にあたります。

            ○

穀物でつくられる醤についての記述が出てくる最古の文献は1世紀頃の中国で書かれた『論衡』です。
紀元1世紀かそれ以前から、大豆を原料とした「豆醤(トウショウ)」や黒大豆を使った「鼓(クキ)」など、植物性の醤がつくられるようになったと考えられています。

大豆を使った醤には日本の味噌に近い固形の発酵調味料や、大豆に小麦を加えた甘い味噌である麺醤がありました(「麺醤」は「甜面醤」や「甜醤」ともいいます)。
そしてもう一つの系統に「醤油」(または「清醤」)という液状の醤があったといいます。
「醤油」の名に使われる「油」という字は「あぶら」が原料として使われたということではなく、トロトロとした粘度のあるものを意味しています。

            ○

大豆を使った醤は朝鮮半島に伝わり、その後平安時代の頃、日本に伝来して「ひしお」という和名がつけられました。
日本に伝わった当初の醤は液状のものではなく固形状で粒の残った固めのものであり、味噌の元祖ともいわれています。
日本人の嗜好に合うように醤が味噌へと発展していく過程で、もう一つ枝分かれして出てきたのが日本の醤油です。

            ○

日本で最初の醤油がどこでつくられたかについては、名古屋であるとか関西であるなど諸説があり定かではありません。
様々ある説の中の一つに、紀州の湯浅が醤油の発祥地だとするものがあります。
西方寺の覚心禅師がこの地に径山寺味噌を伝え、これが後に醤油になったというものです。

1249年、覚心禅師は日宋貿易船に乗って中国に渡り、杭州の径山興聖万寿禅寺で修行しました。
中国で覚心禅師は虚無僧の尺八を学び、1254年にこれを日本に持ち帰って虚無僧尺八の開祖になっています。

径山寺で覚心禅師は尺八だけでなく「鼓(クキ)」の作り方も学び、日本に帰ってからその作り方を湯浅で教えたといわれています。
これが後に「金山寺味噌」と呼ばれるようになった味噌です。

ある時、金山寺味噌を造っている過程で、味噌を発酵させる容器から濃い色をした汁が垂れ落ちているのに覚心禅師は気づいたといいます。
覚心禅師が試しにこれをなめてみると、この味噌から染み出た液の味はとても良く、調味料として使えることを発見したということで、これが日本での醤油の始まりになったという言い伝えがあるのです。

            ○

日本の各地で、味噌の上に押し込んだザルに浮き出る上澄み液が調味料として使われるようになると、これが「溜り」とよばれるようになりました。
もともと「味噌溜り」と呼ばれていたものが短縮されて「溜り」という名になったもので、これが「溜り醤油」の語源ともなったのです。

            ○

現在、味噌は大豆と米と麦を蒸してから麹と塩を混ぜ、発酵させてつくられます。
一方、醤油は大豆に小麦粉と食塩水を混ぜて作られます。
豆に麹菌を直接つけて発酵させてつくられるのが醤油であり、米や麦についた麹菌によって間接的に豆を発酵させることでつくられるのが味噌なのですが、この発酵方法の違いが二つの調味料に異なった特徴を与えることになります。
味噌に比べて、大豆を直接的に発酵させる醤油の製法は大豆をより分解することになり、鋭い味がつくられますが、醤油に含まれる大豆の栄養価は味噌よりも少なくなります。
逆に、味噌をつくる過程では大豆の栄養価は保たれますが、味噌の味は醤油に比べてボケた感じがするのです。

<参考書籍>

森浩一(1987)『味噌・醤油・酒の来た道—日本海沿岸諸民族の食文化と日本』小学館
嵐山光三郎・鈴木克夫(1990)『お醤油の来た道—味の謎への探険隊』徳間書店
NHK取材班(1990)『人間は何を食べてきたか カレー、醤油』日本放送出版協会
小泉武夫 (2000)『漬け物大全—美味・珍味・怪味を食べ歩く』平凡社
柳田友道(1991)『うま味の誕生—発酵食品物語』岩波書店
吉田よし子(2000)『マメな豆の話—世界の豆食文化をたずねて』平凡社
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
井上勝六(1993)『「薬喰い」と食文化』三嶺書房
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店
俣野敏子(2002)『そば学大全—日本と世界のソバ食文化』平凡新書
江原 恵 (1986)『江戸料理史・考—日本料理草創期—日本料理草創期』河出書房新社
木村茂光(1996)『ハタケと日本人—もう一つの農耕文化』中央公論社
前川健一(1988)『東南アジアの日常茶飯—食文化観察ノート』弘文堂
黄慧性(2005)『韓国の食』平凡社

<醤油関連>

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