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2006/12/31

大根いろいろ

世界に類がないほど日本では各地で多種多様な大根がつくられています。
日本に数多くある大根の品種は大きく三つに分類することができます。

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一つは明治時代に日本に持ち込まれた紅色のラディッシュとも呼ばれる二十日大根です。
二十日大根はヨーロッパ系の小型大根で、サラダなどにして食べられています。

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そしてあとの二種類は、根の部分に含まれる澱粉の量が少なく水分量が多い品種と、逆に澱粉量が多く水分が少ないものとに大別できます。

日本に最初に伝わった大根は澱粉が少なく水分の多いタイプの大根だったと考えられています。
「練馬大根」「三浦大根」「青首大根」「方領大根」「守口大根」「聖護院大根」「田辺大根」「桜島大根」などがこのタイプに入ります。

澱粉が多く水分が少ないタイプの大根は根の部分が硬く保存性にすぐれ、強い辛味を持つという特徴があり、漬け物の材料として利用されています。
中部地方や東北地方で多く栽培されており、京都の「鼠大根」や「辛味大根」はこの型に含まれます。

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大根は澱粉や水分の量によって分類される他に、その祖先にあたる品種で区別される場合もあります。
例えば、愛知県春日井市原産の宮重系大根や、神奈川県三浦半島原産の三浦系大根、美濃早生系大根、京都の聖護院系大根などの系統で区別されるのです。

現在の市場で多く出回っている青首大根は宮重系です。
練馬大根も宮重系大根をルーツとしており、江戸時代に江戸近郊で品種改良された宮重系大根が練馬大根になったといわれています。

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全国的に流通しているわけではないのに知名度の高い品種に桜島大根があります。
知名度の高さはご存知の通りその巨大な大きさ故です。
桜島大根は小さいものでも4キログラム、大きいものになると30キログラムもあり、過去最大のものとしては45キログラムという記録が残されています。
170年以上前の薩摩藩の記録にこの大根についての記述があり、桜島大根の栽培の歴史もかなり長いといえます。
桜島大根は愛知の方領大根の変種から作られたという説や、桜島に自生していた浜大根が原種だという説、国分大根を西桜島に持ち込んで栽培してみたところ桜島大根が誕生してしまったという話しもあり、そのルーツには諸説があります。

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江戸時代末に尾張から現在の京都市左京区聖護院に長大根が持ち込まれ、短いものを掛け合わせて栽培していくうちに丸形の大根ができるようになりました。
この丸い大根が後に聖護院大根と呼ばれるようになったのです。
聖護院大根はおでん用の大根として有名です。
(聖護院大根について、「千枚漬の材料として有名」と紹介しましたが、千枚漬で全国的に有名になった京野菜は聖護院かぶでした。上記のように訂正させて頂きます。)

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京都原産の大根には辛味大根もあります。
辛味大根は京都市北区鷹ヶ峰で400年以上前から栽培され始めたと言われており、やはり長い歴史をもつ品種です。

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その他の変わり種大根としては、2メートルにも成長し粕漬けの材料にされている名古屋の守口大根や、外皮が褐色になる黒大根などがあり、一口に大根といってもその色や形は千差万別です。

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名の通った大根の有名品種の原産地は大都市近郊が多いようです。
肥料といえば下肥(排泄物)に頼っていた江戸時代に、都市部で回収した肥やしを川船に載せて上流に運び、川の上流地域でこの下肥を使って野菜が栽培されていました。
上流域でつくられた野菜は船に載せられて消費地である下流域の都市部に運ばれ、都市部で消費された野菜はやがて下肥に変わり再び野菜栽培に使われたわけで、この野菜と下肥のサイクルが確立されていたことが、大都市近郊で優れた大根の品種が誕生した理由の一つだと考えられています。
例えば練馬や宮重、聖護院などはそれぞれ江戸、名古屋、京都の近郊に位置し、これらの地から練馬大根や宮重大根、聖護院大根が誕生しているのです。

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ところで、日本人は様々な品種の大根をつくり、品種の特徴に合わせた色々な大根料理を考え出しました。
「大根おろし」という食べ方も日本人によって考案されたといわれています。
大根おろしは江戸時代には既に食べられていたことが記録により確認されていますが、それ以前にも大根おろしが食べられていたかどうかは定かにされていません。
ただ、江戸時代に辛味の少ない大根が栽培されるようになり、また同時代に醤油の大量生産が可能になって一般庶民でも醤油を使えるようになったという状況を考えると、大根おろしという食べ方が江戸時代に始まったとする説は有力なようです。

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大根おろしは大根が持つ特質の一面を引き出すための調理法といえます。
大根をおろすと、大根の組織内に含まれる配糖体に酵素が作用して4メチル3ブテニル芥子油という辛子に似た物質がつくられ、大根おろしは辛味をもつようになります。
また、芥子油に含まれる硫黄分はうま味や風味の素になるのです。

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よく大根おろしは焼魚に添えられますが、これは非常に理にかなった食べ方です。
大根にはジアスターゼ酵素が含まれており、消化し難い魚と一緒に大根おろしを食べれば、そのジアスターゼ酵素が澱粉の消化を助けてくれます。
また、焼魚の焦げた部分に含まれるといわれる発がん性物質を分解するオキシダーゼ酵素や、古くなった魚に含まれる有害な過酸化脂質を分解する酵素なども大根には含まれており、焼魚と一緒に大根おろしを食べれば、おいしいだけではなく体のためにも良いことが最近の研究で分かってきているのです。

<参考書籍>

高橋素子(2001)『Q&A 野菜の全疑問—八百屋さんも知らないその正体』講談社
日本ベジタブル&フルーツマイスター協会(2003)『野菜のソムリエ—おいしい野菜とフルーツの見つけ方』小学館
大場秀章(2004)『サラダ野菜の植物史 新潮選書』新潮社
吉田よし子(1998)『野菜物語—大地のおいしい贈りもの』TOTO出版
タキイ種苗株式会社出版部(2002)『都道府県別地方野菜大全』農山漁村文化協会
吉田よし子(1988)『香辛料の民族学—カレーの木とワサビの木』中央公論社
浪川寛治三(1996)『野菜物語—たべもの探訪』一書房
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店

<大根関連>

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