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2006/12/16

昆布がとれない沖縄の昆布料理

昆布の収穫は8月で、暑い夏ほど良い昆布が採れます。
養殖物には1年ものや2年ものがありますが、2年以上成長すると昆布は切れてしまうので、3年ものの昆布が市場に出まわることは稀です。

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日本で採られる食用昆布には10種類ほどあり、昆布の全生産の約9割は北海道産のものです。
その中でも「利尻昆布」はよく知られていますが、利尻昆布の他にも「羅臼昆布」や「日高昆布」「真昆布」「長昆布」などがあります。

利尻昆布を用いた出汁は上品な味わいが楽しめ、特に関西で好まれています。
利尻昆布の根元の三角形の部分だけを切り取った「根昆布」は出汁用として出回っています。

関西でも京都では真昆布が使われることが多いようです。
真昆布の中にも「白口浜」と「黒口浜」があり、白口浜は煮物にすると良く、黒口浜は吸い物に向いています。
真昆布や利尻昆布は極薄く削られて「おぼろ昆布」に加工されたり、圧縮された真昆布の葉先が削られて「とろろ昆布」が作られたりしています。

長さが6メートルにもなる日高昆布は「ミツイシコンブ」とも呼ばれ、柔らかくて早く熱が通ることから煮昆布にされたり、香りがよいことから出汁をとるのに使われます。

羅臼昆布は別名を「オニコンブ」ともいい、全体生産量の1パーセント以下しか採られていませんが、濃厚な味の出汁がとれる高級品として珍重されています。

            ○

出汁(だし)は旨味や香りの素となり、まろやかな風味を出して深みのある味をつくります。
伝統的な日本料理では油があまり使われなかったため、塩味を緩和するために出汁が多用されるようになったと考えられています。

昆布はグルタミン酸を多く含み、これが旨味の素となります。
昆布出汁のうま味の素がグルタミン酸であることは明治41(1908)年に池田菊苗氏により発見されました。

ちなみにかつお節の旨味成分がイノシン酸であることは大正2(1913)年に小玉新太郎氏により発見され、椎茸のうま味成分がグアニル酸であることは昭和35(1960)年に国中明氏により発見されています。

英語でもうま味は「umami」といい、中国語では「鮮味」と書き表されます。

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プロの料理人は夫々工夫して昆布出汁をとっており、そのやり方は店により様々ですが、基本的には昆布に水を吸収させることで昆布のうま味成分が溶出されています。
昆布が海の中にあっても出汁が出てしまわないのは、昆布が生きているうちは、細胞内の物質が海中に溶け出てしまうのをその細胞膜が防いでいるためです。
最近の研究では、60℃のお湯に昆布を30分間漬けておくのが最もおいしい昆布出汁をとる方法だという結果も出されているようです。

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縄文時代の遺跡である島根県の猪目洞窟や青森県の亀ヶ岡遺跡からは海草類が出土しており、古代から日本人が海藻を食べていたことが知られています。
平安時代初期に編纂された『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、蝦夷(えぞ)の族長の須賀君古麻比留(すがきみのこまひる)が昆布を献上したことや、須賀君古麻比留よりもだいぶ前の時代から昆布の献上が行われていたことが記されており、かなり古い時代から日本人が昆布を食べていたことが伺えます。

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奈良時代には既に「昆布」という言葉がありました。
一説では昆布の語源はアイヌ語の「コンブ」に由来しているといわれています。
昆布が不老長寿の仙薬の一つとされていた中国には、周代の頃に「綸布(クワンプ)」というものがあったことがわかっており、この「クワンプ」が日本語の「こんぶ」の語源になったという説もあるようです。

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平安時代に編まれた辞典である『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には、昆布が「比呂米(ひろめ)」や「衣比須目(えびすめ)』の名で登場しています。
昆布の幅広い形に由来して「比呂米(ひろめ)」という名が付けられ、採れる場所に由来して「衣比須女(えびすめ)」(夷布)の名がつけられました。

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古来から宮廷などでは出汁をとるのにかつお節が使われましたが、生臭ものを遠ざけた寺院ではかつお節の代わりに昆布が用いられ、精進料理では昆布が欠かせない食材となりました。
昆布出汁は寺院から庶民の間に広まったのだとする説もあるほどです。
また、室町時代になると昆布は煮物にも用いられるようになりました。

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現在、日本で昆布の消費が最も多いのは沖縄県です。
しかし昆布は沖縄では採れません。
江戸時代に、江戸や大阪と北海道の間を航行する北前船(きたまえぶね)の航路が開かれ、北海道の海産物が江戸や大阪に流通するようになりました。
1700年代の末頃、黒糖を積んだ琉球の船と、昆布を載せた松前からの船が同時期に堺の港に入り、黒糖と昆布の取引が行われ、琉球の砂糖が松前に渡り、蝦夷の昆布が琉球に運ばれるようになったといわれています。
松前から関西へは綿花を栽培するための肥料として鰊(にしん)も運ばれていましたが、このにしんを昆布で巻いた「昆布巻き鰊」はこの時代に作られたものです。

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この時代に琉球は日本の薩摩藩と中国の両方から支配されていました。(関連:「沖縄料理の中の琉球史」)
薩摩藩は、鎖国中で海外との貿易が禁じられていたにも関わらず、琉球から中国へ献上品を運ぶ船が航行していたのを利用して、北海道産の昆布を琉球の船に載せて中国へ輸出して利益を得ていました。
1800年代前半には、琉球から中国へ輸送された品の内の約8割は昆布だったこともあり、これはその当時の日本の昆布生産量の約1割に相当する量に相当します。

19世紀には那覇に「昆布座」が設けられ、この頃に昆布は沖縄の一般家庭にも普及しています。
野菜を作るのに適した土地が少なく、夏期には野菜の保存も難しい沖縄では、乾燥させた昆布は野菜の代用食として重宝されたのです。

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沖縄で使われる昆布は日高昆布や長昆布が主で、これらの昆布は本土での需要が少なく、産出される殆どが沖縄で消費されています。
沖縄には、昆布を出汁としてではなく野菜のようにして使う料理が多くあります。
刻み昆布を炒めたクーブイリチーや白身魚を昆布で巻いた昆布巻き、昆布の煮付け、昆布と豚肉、かまぼこ、椎茸を一緒に炒め煮にしたり、ソーキ汁にも昆布が使われています。

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昆布にはミネラルや旨味のもとのアミノ酸が豊富に含まれており、食物繊維やカルシウムも多く、高血圧や高コレステロールの人が食べると良いとされています。
沖縄で長寿の人が多い理由の一つは昆布を使った料理が多いからなのかもしれません。

<参考文献>

講談社(2002)『カラー完全版 魚の目利き食通事典 』講談社
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
月刊食生活編集部(1992)『グルメのおもしろ語源集—食べものふしぎ博物館』コア出版
緒方修・吉川敏男(2004)『体にいい沖縄野菜健康法』実業之日本社
宮城重二(2003)『沖縄の食材・料理—長寿日本一を支える沖縄の食文化』東方出版
服部 幸応 (2004)『大人の食育』日本放送出版協会
柳田友道(1991)『うま味の誕生—発酵食品物語』岩波書店
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店
小泉武夫(2000)『納豆の快楽』講談社
井上勝六(1993)『「薬喰い」と食文化』三嶺書房
奥山忠政(2003)『文化麺類学・ラーメン篇』明石書店
NHK取材班(1990)『人間は何を食べてきたか カレー、醤油』日本放送出版協会

<昆布関連>

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