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2006/11/09

キムチと唐辛子と白菜

韓国語の「キムチ」という言葉は漬物の総称として使われています。
日本では「キムチ」といいますが、韓国語での発音は「キチ」という読みに近いようです。
このキチ(キムチ)の語源は「野菜を沈めて漬ける」という意味をもつ「沈菜(テチェ)」という言葉だといわれています。

            ○

キムチ誕生の様子を伝える話しが韓国には残されています。
ある貧しい農家の男が、萎びた白菜を少しでもピンとした状態に戻そうとして海水に浸けてみました。
すると白菜は海水を吸って量が増えたように見えたのです。
そこで白菜の量を更に増やすため、この男は白菜をしばらくそのまま放置しておきました。
暫くしてまた見てみると、白菜の量は増えるどころか最初の半量にまで減ってしまっていました。
がっかりしつつも仕方なく男がこの縮んだ白菜を食べてみたところ、白菜は予想外に美味しくなっていたことを発見したのです。
その後、白菜を海水に漬けるこの方法は瞬く間に世間に広まり、キムチと呼ばれる漬物になったという言い伝えです。

            ○

おそらくこのキムチ誕生物語は作り話しなのでしょうが、食材を保存するためにかなり昔から人間は塩や塩水を利用してきました。
古代エジプトのレリーフなどにも塩漬け作業の様子が描かれていますし、約3000年前の中国の文献の『詩経』には漬物らしきものについての記述があり、6世紀頃の中国の文献には塩漬けキャベツのことが書き残されているのです。(関連:「ザウアークラウトの作り方」)

朝鮮半島で野菜の塩漬けについて書かれた最古の文献は12〜13世紀の詩人である李奎報(イキュボ)が書いた『東国李相国集』の中の『家圃六詠』です。
『家圃六詠』の中に、冬に備えて瓜やなす、かぶ、ねぎなどを塩漬けにするという記述があります。

            ○

高麗王朝時代には「チャンアチ」と呼ばれる醤油漬けが作られていましたが、朝鮮王朝時代になると塩を使う「キムヂャン法(沈菜漬方法)」という現在のキムチの作り方が発達しています。
まだ塩が貴重だった頃、庶民は海水を使ったり、裕福な家で使った漬け汁を貰い受けてキムチを作っていたようです。
朝鮮半島で様々な種類のキムチがつくられるようになったのは、キムチを漬けるための貯蔵庫がつくられるようになった15世紀以降のことだと考えられています

            ○

キムチと言えばとうがらしを使った赤い漬物を連想する日本人は多いはずです。
単に辛いだけの日本のとうがらしに比べて、キムチに使われる韓国のとうがらしはかすかな甘味を含んでおり、香りも良く、漬物の色が鮮やかに仕上がります。
しかし、大昔から韓国のキムチにとうがらしが使われていたわけではありません。
とうがらしは、15世紀末にコロンブスがアメリカ大陸からヨーロッパに持ち帰った後に世界中に広まったものです。(関連:「とうがらし世界一周」)
1715年に著された韓国の農業書にとうがらし栽培についての記述がありますが、この農業書の中の漬け物について書かれた項ではとうがらしを用いたキムチについて触れられておらず、とうがらしがキムチに使われるようになったのはこの農業書が書かれたよりも後の18世紀後半になってからだと見られています

            ○

キムチにとうがらしが使われるようになった理由の一つとして、朝鮮王朝時代に民間に浸透した儒教の影響があるといわれています。
儒教では祖先を祀る行事は重要で、その祭事で供えられる料理も大切なものです。
朝鮮半島で儒教が普及するに従い、祭事の料理に使われる塩の需要が供給を上回るようになり、その代替品としてとうがらしが祭事用の料理やキムチに使われ始めたという説があるのです。

            ○

日本人にはお馴染みの白菜キムチが普及したのもそう遠い昔のことではありません。
朝鮮半島で白菜が栽培され始めたのは18世紀になってからであり、それ以前はキムチの材料には主として大根が使われていました。
キムチに白菜が一般的に使われるようになったのは19世紀以降のことなのです。

            ○

このように、とうがらしを用いた白菜キムチは韓国でも1〜2世紀前に確立されたものですが、日本で辛い白菜キムチが普及したのは焼肉店が増えた戦後のことです。
日本の焼肉店でキムチが出され始めた頃は「朝鮮漬け」と呼ばれていましたが、1979年にモランボン株式会社がキムチという製品名でキムチ漬けの素を販売し、テレビでこの製品の宣伝が流れるようになった頃から次第に「キムチ」という呼び名が日本で定着していったようです。(関連:「キムチいろいろ」)

<参考書籍>

黄慧性(2005)『韓国の食』平凡社
周 達生 (1994)『中国食探検—食の文化人類学—食の文化人類学』平凡社
朝倉敏夫(2005)『世界の食文化〈1〉韓国』農山漁村文化協会
鄭大声(2001)『焼肉は好きですか?』新潮社 鄭大声(2004)『焼肉・キムチと日本人』PHP研究所 NHK取材班(1990)『人間は何を食べてきたか カレー、醤油』日本放送出版協会
スー シェパード(2001)『保存食品開発物語』文藝春秋
小泉武夫 (2000)『漬け物大全—美味・珍味・怪味を食べ歩く』平凡社

<キムチ関連>

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