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2006/11/30

ねぎから生まれた萌葱色と浅葱色

ねぎはユリ科の多年草です。
確かな原産地は不明ですが中央アジアや中国の西部地方で栽培され始めたのではないかと考えられています。
紀元前30年代の中国でも皇帝の食事用にねぎがつくられていたことが記録に残されています。
冬期の間も囲いと屋根で覆われた畑の中で昼夜火が燃やされ、今でいう温室栽培のような環境で皇帝用のねぎが大切に栽培されていたことが書き残されているのです。
2千年前の中国の文献の『礼記(らいき)』では、ねぎは「野菜の中の筆頭」だとさえ述べられており、当時の中国でねぎが珍重されていたことが伺えます。

            ○

日本の平安時代中期に作られた辞書である『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』の記述を根拠として、ねぎは中国から日本に伝えられたと考えられています。

ねぎの日本での古名は「き」といい、このことから室町時代にはねぎを隠語で「一文字(ひともじ)」ともいいました。
ねぎの総称をとして「き」という呼び名が使われ、「き」には「葱」という字が宛てられました。
江戸中期に編まれた国語辞書『倭訓栞』によれば、「き」という名は「臭気」の「気」に由来しているといいます。

            ○

「葱(き)」の根と考えられた部分(実際には葉の基部)を食べることから、次第に「根葱」と書き表すようになり、「白根」や「根深(ねぶか)」という別名も付けられました。
「分け葱(わけぎ)」とは葱が株分かれしているという意味であり、「浅つ葱(あさつき)」は比較的香りが弱い葱ということに名前の由来があります。

色を表す言葉の「萌葱(もえぎ)」とは「葱(き)の芽のような緑色」のことを指しました。
「浅葱(あさぎ)」という色はもともと薄い青緑色を指す言葉でしたが、何時しか水色を意味する言葉として使われるようになりました。
「萌黄」や「浅黄」と書かれる場合もあるようですが、これは読みをもとにした宛て字であって本来の意味を表しているとはいえません。

            ○

長ねぎには大きく分けて、白い部分が多い根深ねぎと緑の部分が多い葉ねぎがあります。
根深ねぎは中国北部地方で作られるようになり、その後、南部で葉ねぎが作られるようになったと考えられています。
日本へは奈良時代の頃に両種類のねぎが持ち込まれ、関東では根深ねぎが、関西では葉ねぎが好まれるようになりました。
根深ねぎを作るには、ねぎの白い部分を作るために耕土を20〜30センチ掘り、ねぎが伸びる度に土を掛けて日光から遮断する必要があります。
火山灰のローム層が堆積している関東では深い穴が掘り易い柔らかい耕土が多いのに対して、関西では花崗岩や粘土が混じった堅い土壌が多く、層も薄いため土寄せする必要のない葉ねぎが主流になったと考えられています。
また、冷涼な気候でねぎを栽培した方が軟泊(なんぱく)させるのに適しており、このことも関東で根深ねぎが好んで栽培された理由の一つではないかといわれています。
ちなみに、葉ねぎの方が栄養価は高いといわれますが、根深ねぎの緑の部分にもカロテンが豊富に含まれています。

            ○

根深ねぎには千住ねぎ系の深谷ねぎや加賀太ねぎ系の下仁田ねぎなどがあり、葉ねぎには九条ねぎ系の九条太ねぎや九条細ねぎなどがあります。
深谷ねぎは埼玉県深谷で盛んに栽培されており、茎が太くて柔らかいという特徴があります。
九条太ねぎは葉ねぎの代表格で西日本で多く消費されています。
九条太ねぎに形が似ていて葉肉の薄いものが九条細ねぎで、博多万能ねぎはこの仲間になります。

下仁田ねぎは群馬県の特産で甘味を多く含んでいるため鍋に向いており、ねぎの王様と呼ぶ人さえいます。
下仁田ねぎ栽培の歴史は二百数十年ともいわれ、江戸時代に将軍家や大名にも献上されたことから「殿様ねぎ」の別名もありました。
下仁田ねぎの発祥地が甘楽群西牧村大字西野牧字小出屋であったため、明治時代には「西牧ねぎ」の名で流通されていましたが、農産物の産地としては下仁田の方が知名度があったので「下仁田ねぎ」の名に変えられたといいます。

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ところで、禅宗の寺の門前に「不許葷酒入山門」(葷酒山門に入るを許さず)という石碑が置かれているのを見かけることがあります。
この石碑の文言は韮(にら)やにんにくなど、臭いの強いねぎ類の野菜や酒の寺への持ち込みとそれらを摂取した人の入門を禁じることを意味してます。
精神統一が求められる禅宗の修行で強壮作用があるねぎ類は修行の妨げになるとして修行僧から遠ざけられたのです。
確かにねぎ類が含むアリシンには殺菌作用やビタミンB1の吸収を促進させる働きがあり、ねぎ類を食べることで活力や強壮作用を高める効果が期待できます。
また、アリシンには喉の痛みや咳を抑える働きもあり、ちょっとした風邪対策にねぎを食べることは有効です。
11月から12月に掛けてねぎは一番おいしくなります。
忙しい師走を乗り切るために、旬のねぎを意識して食べてみては如何でしょうか。

<参考書籍>

高橋素子(2001)『Q&A 野菜の全疑問—八百屋さんも知らないその正体』講談社
タキイ種苗株式会社出版部(2002)『都道府県別地方野菜大全』農山漁村文化協会
日本ベジタブル&フルーツマイスター協会(2003)『野菜のソムリエ—おいしい野菜とフルーツの見つけ方』小学館
張競(1997)『中華料理の文化史』筑摩書房
月刊食生活編集部(1992)『グルメのおもしろ語源集—食べものふしぎ博物館』コア出版
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店
安達巌(2004)『日本型食生活の歴史』新泉社

<ねぎ関連>

生姜と葱の本—蘇先生の家庭薬膳 たっぷり食べて体質改善 生姜と葱の本—蘇先生の家庭薬膳 たっぷり食べて体質改善
蘇 川博 下川 憲子


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野菜園芸大百科〈18〉ネギ・ニラ・ワケギ・リーキ・やぐら性ネギ 野菜園芸大百科〈18〉ネギ・ニラ・ワケギ・リーキ・やぐら性ネギ
農文協 農山漁村文化協会=


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