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2006/10/10

マグロのトロはなぜ高いか

縄文時代の頃からマグロは食べるために獲られていましたが、日本人には長い間不人気な魚でした。
特にマグロのトロは猫も食わないという意味で「猫またぎ」とよばれた時代もあったほどです。
昭和初期頃までマグロのトロは家庭のおかずやネギマ鍋にされるくらいで、すしネタに使われることはありませんでした。
日本人がトロを食べるようになったのは昭和30年代以降で、日本人が脂質の多い食べものを好むようになってからマグロのトロは一般的に普及しました。

            ○

マグロのトロといっても、全ての種類のマグロからトロがとれるわけではありません。
北半球の日本近海や大西洋、地中海にいるクロマグロ、そして南半球のオーストラリアのタスマン沖で泳ぐミナミマグロからトロはとれます。
クロマグロは別名をホンマグロといい、英語ではブルーフィンと呼ばれています。
ミナミマグロは日本の河岸での別名をインドマグロといい、英語名ではサザーンブルーフィンとされています。(関連:「マグロの格付と冷凍技術」)

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日本近海でも獲れるクロマグロは、小さい目のものの方が品質が良く、ムラなく全体的に柔らかく弾力のある皮を持つマグロの身は品質が高いといわれています。
尻尾を切ったときの切り口を見る場合には、切り口の真ん中が赤く、その外側はピンク色になっているものが良いクロマグロです。

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Maguro_parts クロマグロの背側の身は背筋カミ、背筋ナカ、背筋シモの三つに区分されており、腹側も同様に頭の方から順に腹筋カミ、腹筋ナカ、腹筋シモと区別されます。 背筋カミは赤身の中級品で、背筋ナカは赤身の高級品、背筋シモは赤身の下級品として扱われます。 トロの脂にはマグロの内蔵を守る役割があり、内臓を取り囲むようにしてついています。 腹筋カミがトロの高級品、腹筋ナカはトロの中級品、そして腹筋シモがトロの下級品として扱われます。

大雑把に言って腹近くの身が大トロになり、その上の部分が中トロになります。 
大トロの部分は脂質含有量が30%弱程度あり、冬期になれば40%にまで増え、非常に柔らかくまさにとろけるような食感を与えてくれます。
中トロは赤みが強く大トロほどに脂はありませんが食べた時の食感はなめらかです。
腹筋カミの大トロ部分でも筋が入る部分と霜降りと呼ばれる筋の入らない部分があり、日本では霜降り部分を好む人が多いようです。

脂ということでいえば、エラ下のカマと呼ばれる部位や頭の部分には大トロよりも多くの脂質が含まれていますが、こちらはあまりにも脂が多く、生で食べるよりも炙るなどして熱を加えたうえで食べられています。

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日本近海でとれるマグロで有名なのが大間のマグロですが、大間のマグロでおいしいとされるのは赤身の部分です。(関連:「マグロの血合は伊達じゃない」)
クロマグロの赤身には他のまぐろよりも旨味成分が多く含まれています。
マグロの赤身で価格が最も高いのは胴体真ん中の背筋ナカの部分です。
尾に近い背筋シモは背筋ナカの赤身よりも赤みが強く鉄さびの香りがして、それを好む人もいますが、背筋シモの身は背筋ナカや背筋カミより価格は安くなります。

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マグロを解体した場合、刺身に使えるのは皮がついた状態でマグロ全体の60%、皮を取り除いた状態で50%程度になります。
1匹のマグロの半分程度しか刺身には使えないのです。
トロに限定するとマグロの全重量の15%程度しかありません。

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Toro 天然マグロのトロのにぎりが1カンで2000〜3000円、クロマグロの大トロでは1カンあたり4000円くらいになってしまうのは、巨大なマグロからトロはほんの少量しかとることができないからです。
回転寿司や宅配寿司で安いトロのにぎりを出すことができるのは、天然ものよりも脂質を多く含む養殖マグロのトロを使っているからで、養殖ものを使ったにぎりは一カンあたり300〜350円程度の価格になります。

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鳥インフルエンザやBSE感染牛の問題があって鶏肉や牛肉の消費が減少したことや、健康に配慮して魚を好む人達が増えたことなどからアメリカや中国でマグロの消費量が伸びており、日本へのマグロ供給量が減っている現状があります。
マグロのトロの旨さをアメリカ人や中国人が知ってしまったことで、日本の寿司店で出されるトロのにぎりの値段はこれから増々高くなっていく可能性があるのです。

<参考書籍>
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社上田 武司 (2003)『魚河岸マグロ経済学』集英社
堀武昭 (1992)『マグロと日本人』日本放送出版協会
成瀬宇平(2003)『すしの蘊蓄 旨さの秘密』講談社
服部幸鷹(1999)『服部幸応流うまい料理の方程式』河出書房新社

<トロ関連>

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