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2006/10/24

トマトケチャップのルーツの謎

「ケチャップとはもともと何語なのか」という議題をこれまで多くの学者達が論じてきました。
トマトケチャップの歴史は長いとはいえないのですが、「ケチャップ」という言葉の由来を示す決定的な資料が残されていないため、ケチャップの語源については様々な説がこれまで唱えられてきたのです。

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例えば、スペイン語やポルトガル語でソースを意味する「escabeche(エスカベチェ)」に由来するとか、魚をスパイスや酢に漬け込む料理の「cabeach(カビーチェ)」が語源であるといわれたりもしました。

1909年に、アメリカの化学者ビッティングが、インドネシアやマレー半島で使われた「kitjap」という言葉が「ケチャプ」の語源だとする説を発表してからは、「ケチャップ」はアジアの言葉に由来するとしたいくつかの説が唱えられるようになります。
東南アジアのいくつかの地域では、魚や果物、木の実を塩漬けにして塩辛状にしたものを「ケチャップ」とよんでおり、例えば、インドネシアでは現在でも「塩辛い醤油」を「ケチャップ・アシン」とよび、「甘い醤油」を「ケチャップ・マニス」とよんでいるのです(インドネシア語でトマトケチャップは「ケチャップ・トマット」)。

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魚を塩漬けすることで作る魚醤を中国南部では「ketsiap」といい、この言葉がケチャップの語源になったのだとか、この中国南部の言葉である「ketsiap」がマレー半島に伝わりマレー語として使われるようになった後に、ヨーロッパに伝わって「ケチャップ」の語源になったとも考えられました。
確かに、17世紀にイギリス人がマレー半島で盛んに貿易を行っていた頃、この地でトマト栽培は既に行われており、トマトが塩や香辛料に漬けられていた可能性も否定できないのです。

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ケチャップの語源になったかどうかはともかく、魚や野菜を漬け込んだ後に残る漬け汁をマレーの人々が捨てずに料理に利用していたのは事実であることから、18世紀頃、マレー半島で貿易に携わっていたイギリス人が漬け汁をソースとして利用する方法を覚え、本国に帰ってこのソースを伝えたのだろうということは半ば定説化しているようです。

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イギリス商人がアジアで聞いた名を口伝したためか、英語のケチャップには、「Ketchup」や「Catsup」「Catchup」など幾つもの綴りができてしまいました。
イギリスからアメリカにトマトケチャップが伝わり大量生産が始められるようになっても綴りの混乱は続き、トマトケチャップ製造会社大手のハインンツ社ではラベルの印字に「Ketchup」と「Catsup」の両方の綴りを使っていた時期があり、20世紀初めになってようやく「Ketchup」に統一しています。
デルモンテ社は「Catsup」という綴りを長い間使っていましたが、世の主流に合わせて1988年に「Ketchup」に変更した経緯があります。
欧米の綴りの不統一の影響を受けて、ケチャップが初めて紹介された明治時代の日本でもケチャップの名称は曖昧だったようです。
洋書にケチャップが様々な綴りで書かれていたことから、それらの洋書をもとにケチャップを紹介した日本の書籍でも「カットサップ」や「カツアップ」など色々な読みがなされています。

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1700年代初めにイギリスの貿易商達がマレー半島で覚えた味を再現したとされる初期のトマトソースは辛味のあるものだったようです。
その後、牡蠣や胡桃、茸などが加えられるようになり、様々なバリエーションのケチャップが作られるようになりました。
1727年にイギリスで出版された『Complete Housewife』という本にトマトケチャップの作り方が初めて載せられています。
このレシピの材料にはアンチョビーも使われており、ケチャップのルーツはアジアの塩漬け魚だという説を裏付けるものではないかとも捉えられています。

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19世紀にイギリスで発刊された料理書『Huse-Keeper's Pocket-Book』には5種類のトマトソースと3種類のトマトケチャップの作り方が載せられていますが、これらは家庭で使うために書かれたもので、この当時にはまだ市販品のトマトケチャップは流通しておらず、この頃のイギリスでトマトケチャップは一般には馴染みの薄いものでした。
トマトケチャップの市販品が大量生産されるようになったのは1900年以降のことで、第一次大戦後になってようやくイギリスの一般家庭にトマトケチャップは普及しています。

その後、ウースターソース同様、トマトケチャップはイギリス人には欠かせない調味料となりました。
ヨーロッパには「フランスには一つの宗教と360のソースがあり、イギリスには360の宗教とたった一つのソースがある」という諺があるそうです。
一つのソースというのは言い過ぎですが、食材や料理に合わせていくつものソースを作るのではなく、とりあえずウースターソースやトマトケチャップを何の料理にでも掛けて済ませてしまうというイギリス人を揶揄する意味がこの諺には込められているのです。

<参考書籍>

橘みのり(1999)『トマトが野菜になった日—毒草から世界一の野菜へ』草思社
シルヴィア・ジョンソン(1999)『世界を変えた野菜読本—トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシ』晶文社
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店
吉田 豊(1995)『食卓の博物誌』丸善
前川健一(1988)『東南アジアの日常茶飯—食文化観察ノート』弘文堂

<トマトケチャップ関連>

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