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2006/10/12

胡椒の魅力

古代ローマ帝国で胡椒は富や権力の象徴とされ、贅沢品として扱われました。
その時代、ヨーロッパへ向けてインド西南部のマラバル地方の海岸から胡椒が送りだされていたのです。(関連:「黒胡椒と白胡椒と緑の胡椒」)
ローマ帝国で胡椒は料理にも使われましたが薬としても用いられ、紀元後92年にスパイス貯蔵施設がローマに建設された際、ドミティアヌス皇帝は国の戦略物資の一つとして胡椒を備蓄させたといいます。

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中世になってもヨーロッパで最も貴重なスパイスといえば胡椒でした。
インドで採られた胡椒がベネチア商人などによってヨーロッパに運ばれており、胡椒商売で利益を上げていたベネチア商人は胡椒のことを「天国の種子」と呼びました。

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粒のままだと何年も保存ができる胡椒はヨーロッパで貨幣同様に扱われ、力のある商人は財力を見せつける意味もあり、大量の胡椒の在庫を抱えていました。
この時代には胡椒による決済や課税が行われ、持参金として胡椒が使われたりもしていたのです。

中世ヨーロッパの裕福層は、今の感覚からすると無分別ともいえる胡椒やスパイスの使い方をしており、食材の味よりもスパイスをより多く使うことを重視していました。
14世紀ころの領主の収入の30%は飲食に費やされ、その飲食費の5%はスパイス代に使われたといわれており、中世の金持ちが客をもてなす料理には大量のスパイスが振りかけられていました。
かつての日本で「舶来品」という言葉があったように、中世頃までのヨーロッパでは「東洋」から運ばれたスパイスにエキゾチックな魅力を感じていたようで、味よりも大量のスパイスを使うことに意味があったのです。

同時代の庶民には、高価な胡椒は手が出し難いものだったため、マスタードが代用品として使われました。
マスタードさえも買えない場合は玉ねぎやにんにく、ねぎの類いが使われましたが、野菜をスパイス代わりに使うことは上流階級から卑下されていた面もあったようです。

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漢字で書く「胡椒」の「胡」は西北方から中国に伝わった外来品を意味し、山椒を表す「椒」に「胡」がついて胡椒という言葉がつくられました。
中国で胡椒やナガコショウが多く使われるようになったのは12〜13世紀以降のことです。
初めは西方から中国に伝わった胡椒ですが、胡椒が多用され始めた時代にはインドネシア産の胡椒が中国で使われていました。
インドネシアの胡椒栽培は11世紀頃から始まり、主な輸出先は中国に限られ、ヨーロッパにも輸出するようになったのは14世紀になってからのとことです。

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日本の正倉院には、中国から薬として持ち込まれたとされる152粒の胡椒が保存されています。
最初に胡椒が伝わってから長い間、日本で料理に胡椒が一般的に使われることはありませんでしたが、江戸時代になってオランダ船が日本に胡椒を持ち込んだ頃から、一部のプロの料理人の間で料理にも使われ始めました。
料理人に使われた以外では、江戸時代の胡椒は旅するときに持ち歩く薬として用いられており、水あたり防止丸薬として服用されたことが記録に残されています。

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江戸時代に胡椒が伝えられたのはとうがらし伝来より後のこととされていますが、なぜか東北や九州の一部の地域ではとうがらしを胡椒と呼ぶ地方があります。
今や全国的に知られるようになった「柚子胡椒」の原料に胡椒は入っておらず、とうがらしが使われているのですが、名前には「胡椒」という語句が入っています。
これは柚子胡椒を作った地方で、とうがらしが胡椒と呼ばれたためです。
(柚子胡椒の名称や作り方については「Matsutani家のホームページ」のこちらのサイトにもありました)

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長期保存した肉のいやな匂いを胡椒が消してくれることもヨーロッパで胡椒がもてはやされた理由の一つです。
日本でも肉食が普及するにつれ胡椒も使われるようになりました。
胡椒の辛味に慣れていない日本人のために、普及品となった卓上胡椒には蕎麦粉が混ぜられ辛味が和らげられました。
このソバ粉が入った胡椒は日本の至る所に置かれるようになり、様々な料理に使われるようになります。
しかし、それ故に、微量のソバを摂取するだけで死亡することもあるソバアレルギーを持つ方にとっては頭の痛い問題になっています。

<参考書籍>
井上宏生(2002)『スパイス物語—大航海からカレーまで』集英社
吉田よし子(1988)『香辛料の民族学—カレーの木とワサビの木』中央公論社
石毛直道(2004)『食卓の文化誌』岩波書店
山田均(2003)『世界の食文化 (5) タイ』 農山漁村文化協会
小磯千尋(2006)『世界の食文化〈8〉インド』農山漁村文化協会

<胡椒関連>

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