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2006/10/05

フォアグラと侯爵のパテ

世界三大珍味といえばキャビアとトリュフそしてフォアグラです。
キャビアとトリュフを人工的に作ることはできませんが、逆にフォアグラは人間が手を加えなければ作ることができません。(関連:「トリュフはなぜ珍味か」)(関連:「キャビアとチョウザメ料理」)

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ガチョウやカモに大量のエサを食べさせてそれらの動物の肝臓を肥大させることでフォアグラは作られます。
通常、動物に無理矢理エサを食べさせれば消化不良を起こして死にますが、大量の水と一緒にエサを与えればガチョウやカモはエサを消化してしまうのです。
この強制的なエサやりのことを「ガヴァージュ」といい、ガヴァージュのエサには蒸したとうもろこしに油と塩を混ぜ込んだものが使われます。
ガヴァージュは毎日6時間毎に行われ、フォアグラ完成までには1ヶ月を要し、一羽のガチョウに使われるエサの総量は25キロ程度だといわれています。
昔は人間1人がガチョウを押さえて、もう1人が漏斗でエサを流しこんでいましたが、現在は機械が使われています。
漏斗状の器具をガチョウの口につっこみ、エサが機械で流し込まれた後にガチョウの首を人間が手でなでるなどして胃に向かってエサを送り込みます。

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家畜化されたガチョウの最古の記録は古代エジプトの遺跡に残されたレリーフです。
いくつかのレリーフが残されていますが、紀元前2500年に亡くなった高官の墓から発見されたレリーフにはガチョウに強制的にエサを食べさせている様子が描かれており、フォアグラを作るためのガヴァージュと同様の作業がこの時代に行われていたことをこのレリーフは示しています。
ただし、エジプト人がガチョウの肥大した肝臓を食べていたのか、食べていたとしたらどのように料理していたのかについては不明です。

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強制的エサやりを行っていた古代エジプト人がガチョウの肝臓を食べる目的でそれを行っていたと決めつけられないのは、後の古代ローマやギリシャ時代に、ガチョウを太らせてその肉を食べるためにガヴァージュを行っていたことが、残された記録で明らかにされているからです。

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古代ローマ帝国がフランスを支配下においたときガチョウを太らせる技術もフランスに伝わりましたが、長い間フランスでも肥大した肝臓が食材として珍重されることはありませんでした。
やはりフランスでも肥満させたガチョウの腿肉を食べることはありましたが、食材にするために意図的にガチョウの肝臓を肥大させることはなかったのです。

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15〜16世紀頃になると、フォアグラをとるためのガヴァージュらしきことがフランスで行われ始めましたが、それでもフォアグラ料理が頻繁に食べられたわけではありません。
フォアグラが食材として注目されるようになったのは、18世紀になってフォアグラでパテが作られるようになってからのことです。
1780年前後のフランスで、ジャン・ピエール・クローズ(Jean Pierre Clause)という料理人がフォアグラのパテである「コンタード風パテ」をつくりました。
ルイ16世に使えていたコンタード侯爵が開くパーティーを前に、招待客が見たこともないような料理を作るようにと料理人のクローズは命じられ、そこで作られたのが後にコンタード風パテと名付けられたガチョウのフォアグラのパテでした。
このパテは好評を博し、後にルイ16世にも献上されたといいます。

その後、ニコラ・フランソワ・ドワイアンという料理人により、フォアグラのパテにトリュフの香りが混ぜられるようになり、フォアグラのパテは最高のパテと賞賛されるようになります。
パテの材料として使われるようになって以降、フォアグラは食材として脚光を浴びるようになったのです。

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フォアグラのパテが盛んに作られるようになった19世紀になると、フォアグラという嗜好品をつくるためにガチョウの口を無理矢理こじ開けてエサを流し込むことに対して非難の声があがるようにもなります。
現在でも動物愛護団体などが中心となってガヴァージュは動物虐待であるという抗議が度々行われており、カリフォルニア州ではガヴァージュによってつくられたフォアグラを州内でつくることを2012年から禁止する法律がつくられています。
一方で、2005年10月に、フォアグラは国の文化遺産であるとした法案がフランスで可決されたりもしています。
最近は鳥インフルエンザの影響で一時的にフォアグラの輸入が禁止されたりなど、その消費量が落ち込んだりもしましたが、今後この食材はどのように扱われていくのでしょうか。

<参考書籍>
宇田川悟(1994)『食はフランスに在り—グルメの故郷探訪』 小学館
末永徹 (2005)『食材はどこから』料理王国社

<フランス料理関連>

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