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2006/10/09

キャビアとチョウザメ料理

最高級品は宝石並の価格で取引されるキャビアはご存知の通りチョウザメの卵です。
チョウザメはサメに似た体型をしているために、名前に「サメ」が入っていますが、サメの仲間ではなくチョウザメ目チョウザメ科の魚です。
漢字で「蝶鮫」と書くように、体表の一部には蝶の羽のような大きなウロコがついています。
もちろんチョウザメにはサメのような牙はなく、それどころか歯もついていません。
畳み込むようにしてしまってある柔らかな口を突き出してエサを吸い込みます。
チョウザメは2億5000万年前から生息してきたといわれる生きた化石で、鮭のように川で産卵し、孵化した稚魚は川を下って海で成長します。
成魚になるのに10年以上掛かかり、鮭とは異なり産卵後も生き続け、中には100年前後も生きるチョウザメもいるといわれています。

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100年以上前にチョウザメは、太平洋や大西洋、北アメリカ、地中海、カスピ海、バルト海、黒海周辺など北半球の中緯度に位置する川や湖などに広く分布していました。
その頃のアメリカの酒場ではキャビアを無料のつまみとして出していたというほど、チョウザメはありふれた魚だったのです。

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その後、石油の採掘やダム建設工事などによる環境汚染や乱獲、密漁によってチョウザメの数は激減し、今はカスピ海とロシアのボルガ川にしか生息していません。
キャビアの主要生産国はロシアやイラン、カザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの五カ国となっています。

19世紀末のロシアのキャビア輸出量は年間100トンを越えていました。
しかし2003年にはロシアのキャビア生産量は50トン、輸出量は20トンにまで落ち込んでいます。
カスピ海沿岸諸国は千万匹単位でチョウザメの稚魚の放流を行っていますが、その生存率は低く密漁は減らないため、2006年にはついにワシントン条約事務局によってカスピ海産キャビアの国際取り引きを禁止する緊急措置がとられています。

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ところで、一口にキャビアといっても、チョウザメの種類によりベルーガ、オショートル、セヴリューガ、ステルリャジ、ベステルなどの分類がされます。
オオチョウザメという種類のチョウザメの卵でつくられたキャビアは最高級品として扱われます。
一匹のオオチョウザメから20キロ弱の卵をとることができ、この卵で作ったキャビアをロシア語の商品名でベルーガ(Beluga)といいます。
ベルーガの次に価格が高いのは、ロシアチョウザメ1匹から5キロ前後とれる卵で作られるオショートル(Oscietra)です。
ベルーガやオショートルに次ぐものがホシチョウザメの卵で作られるキャビアで、商品名をセヴルーガ(Sevruga)といい、ホシチョウザメ1匹からは2キロ以下の卵しかとれません。

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キャビアは粒の大きさにより等級がつけられ、15の等級分けがされます。
大雑把に言って、最高級品のベルーガは大粒のキャビアで、オショートルは中粒、セヴルーガは小粒になります。
ベルーガのキャビアが詰められるビンのフタは青、オショートルは黄色、セヴリューガは赤と色分けがされ、パッケージでキャビアの種類が分かるようになっています。
1番上の等級がつけられるキャビアと1番下の等級のものでは、2倍から3倍近くもの価格差があります。

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キャビアは獲れたてを短時間で処理しないと粒がつぶれて商品価値が著しく下がってしまうため、キャビア作りには熟練の技術が必要となります。
チョウザメから取り出された卵は布のふるいを使って不純物が取り除かれ、その後の水洗いで更に異物が取り除かれます。
きれいになった卵には、卵の1〜2%にあたる塩が混ぜこまれ、熟成させるために2日間ほど寝かせた後にビンに詰められます。

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キャビアの価格はとにかく高く、庶民が気軽に手を出せるものではないということで、キャビアのイミテーション品なども作られています。
代用キャビアには、デンマークで水揚げされるランプフィッシュの卵を黒く着色したものや、タラやホウボウの卵を使ったものがあります。
日本で作られるイミテーション・キャビアにはトビウオの卵を漆黒に染めたものなどもあります。
ラベル表示でイミテーションと断り書きがあればいいのですが、中にはイミテーション品をキャビアとして売る偽物も出回っているそうです。

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親のチョウザメよりもその卵で作られるキャビアの方が昔から有名だったわけですが、地域によっては親のチョウザメの肉を好んで食べる地域もありました。
中国でチョウザメは「鰉魚」とよばれ、かつては皇帝の魚とされていました。
特にチョウザメの軟骨が珍重されていたといいます。

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ロシアではチョウザメの身を塩漬けやマリネにしたり、ソテーやグリルにしてよく食べられたこともあり、ロシアのアムール地方では生のチョウザメ肉にねぎやギョウジャニンニクのような香草の薬味をのせ、塩をふって食べたといいます。
アムールで獲られたチョウザメの肉は地元で食べられ、軟骨は中国に送られていました。

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カスピ海産キャビアの国際取引が禁止される以前は、世界のキャビアの90%はカスピ海で水揚げされたチョウザメで作られていました。
そのカスピ海に面するイランは最上級キャビアのベルーガの生産国でありながら、キャビアを食べることは昔から稀でした。
これはキャビアの価格が高いからだけでなく、鱗のない魚とその卵は食べてはいけないというイスラム教シーア派の教義があったからです。
1983年に、聖職者と専門家の調査の結果に基づいて、チョウザメの尾びれの上には菱形の鱗があるとしてチョウザメの身も卵も食用にして良いとする宗教的解釈がホメイニー師によって示され、これ以降イラン国内でのチョウザメの切り身の消費量は僅かばかり増えたといいます。

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日本でも昔は北海道の川にチョウザメが遡上していたことが分かっています。
このチョウザメは今は標本等でしか見られませんが、1966年にはロシアからチョウザメの稚魚500匹が日本に贈られており、これを期に「日本チョウザメ研究会」がつくられ、後に「国際スタージョン交流会」も設立されています。
国際スタージョン交流会はチョウザメの学術的研究をする会ではないようですが、例会を開いてチョウザメの養殖状況などを発表したり、全国のチョウザメ養殖場を見学するなどの活動を行っているようです(なぜかGoogleではインデックス登録されていないようです)。
国際スタージョン交流会のサイトの情報によれば、日本各地で町おこしのためにチョウザメの養殖に挑戦している地域があるそうですし、釜石市の「暮れ六つ」というお店では養殖したチョウザメの料理が食べられるようです。

<参考書籍>
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
上岡弘二 (1999)『アジア読本 イラン』河出書房新社
岸上伸啓(2005)『世界の食文化 (20) 極北』農山漁村文化協会
沼野充義, 沼野恭子(2006)『世界の食文化〈19〉ロシア』農山漁村文化協会
開高健(1990)『オーパ、オーパ!!〈アラスカ篇 カナダ・カリフォルニア篇〉』集英社
佐藤魚水(1997)『魚の謎解き事典』新人物往来社

<キャビア関連>

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