サフランと黄金色の香り
フランス料理のブイヤベースやスペイン料理のパエリヤなどに使われるサフランは別名を「蕃紅花(ばんこうか)」ともいいます。
原産地は南ヨーロッパや西アジアです。
サフランの学名は「crocus sativus」といいますが、サフランとクロッカスは同じクロッカス属に分類されます。
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サフランの紫色の花につく赤い雌しべを採取して乾燥させたものが香辛料としてのサフランです。
サフランは1年に1回しか開花せず、花は2週間しかもちません。
花が枯れる前の2週間という短い期間に人の手で雌しべを摘み取らなくてはならないのです。
しかもサフランの花には細い雌しべが三本しかついていません。
1グラムのサフランを生産するのに500本程度の花が必要になるといわれており、サフランはどうしても高価になってしまうのです。
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乾燥させたサフランの雌しべを水に浸すと赤色から黄色に変化します。
古代エジプトでは太陽を神として崇める太陽信仰が盛んで、サフランでつくる黄色の染料は太陽を表す色として儀式などに使われていました。
また、クレオパトラは化粧品の一つとしてサフランからつくられた香油をつけていたといわれています。
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古代エジプト時代からサフランは薬としても使われていました。
だいぶ後の時代になりますが、中世のイギリスではサフランが心臓や肺の病気に効くと考えられ、ワインに混ぜたサフランを患者に飲ませていたことがあります。
現代の日本では鎮痛用の漢方薬としても扱われているようです。
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紀元前2600年頃に栄えたクレタ文明の遺跡で発見された壁画にもサフランの絵が描かれています。
後にそのクレタの地を支配した古代ギリシャでも、サフランでつくる黄色は高貴な色として扱われました。
ギリシャ神話に限らず多くの宗教で「神」の象徴は黄金であり、黄金色に近い黄色を出すサフラン染料は珍重されたのです。
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ローマ帝国時代の香辛料は富を示すステータスシンボルでもありました。
香辛料の中でも特に高価なサフランは力を誇示したい上流階級層には打って付けの品でした。
当時、サフランは二日酔いに効き、眠りを深くすると信じられていたため、サフランでつくられた枕が貴族などの間で用いられたりもしました。
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古代アラビアでも黄色は貴い色であったため、サフランは大切な染料の材料として使われています。
一方で、高価な贅沢品だったことから、サフランは堕落の象徴ともされていました。
古代アラビアでは、男にとっては肉とワイン、女にとっては黄金とサフランが人間を堕落させるものの筆頭に上げられていたのです。
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中世のヨーロッパではエーゲ海のレパント地方を中心にサフランが生産されました。
14世紀頃なるとスペインやイタリア、イギリスでもサフランがつくられるようになります。
妖精はパンをサフラン風味のミルクに浸して食べるのだという言い伝えがあるイギリスに、最初に持ち込まれたサフランは盗品だったという話しがあります。
イギリスのエセックス地方のある町からキリストの聖地に赴いた巡礼者が、イギリスに帰国する途中にレパントに立ち寄り、そこでサフランの球根を巡礼用の杖の中に隠して故国に持ち帰ったというのです。
この巡礼者が持ち帰ったサフランの球根の栽培は成功し、サフランのお陰で豊かになったこの町は後にサフロン・ウォールデン(Saffron Walden)という名に変えられ、町の教会の屋根飾りにはサフランの花の彫刻がほどこされたといいます。
イギリスに伝わったサフランについては、十字軍が遠征した先でヘンリー I 世が献上品としてサフランを受け取り自国に持ち帰ったのが最初だという説や、ローマ帝国がイギリスを統治していた時代にサフランが伝えられたという説もあります。
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中世のヨーロッパでもサフランは染料として使われ、高値で取引されていました。
これに目を付けたインド人が、インド料理には欠かせないウコンを原料にしてサフランよりもだいぶ安い値段のサフラン染料の模造品をつくり、「インディアン・サフラン」と名付けてヨーロッパで売って利益を得ていたことがあります。
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サフランの模造品はインド人によって初めてつくられたわけではありません。
古代ローマの博物学者のプリニウスがサフランは偽物が多いと書き残しており、プリニウスが生きた紀元1世紀頃から偽サフランが出回っていたことが分かっています。
中世のヨーロッパではキンセンカやベニバナの花びらを乾燥させたものがサフランの代用品に使われ、「貧乏人のサフラン」とよばれていました。
その他にも柳の根や肉を細かくほぐしたもの、トウモロコシの毛に色をつけたものなど、サフランのモドキというよりは悪質な偽物といえる品が多く出回りました。
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中世ヨーロッパの市場から本物のサフランが追いやられてしまうほど偽サフランが流通してしまったため、ヨーロッパの国々は取り締まりに追われました。
当時のフランスでは偽サフランを売った者に懲役刑を課しています。
1444年のドイツでは偽サフランを扱った商人が逮捕され処刑された記録さえあります。
この商人は自分が売っていた偽サフランと一緒に火あぶりの刑に処せられました。
死ぬ間際の火の中で嗅いだ匂いは自分が売ろうとした偽サフランの匂いだったというなんとも残酷で皮肉な話しです。
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今でもサフランのイミテーション商品がありますが、現在は合成香料や色素でつくったサフランそっくりの色や香りをサフランの細胞を無菌培養したものにつける方法が使われたりしています。
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様々なコピー商品が出回るほどサフランはヨーロッパで人気を得たわけですが、サフランはヨーロッパだけで使われたわけではありません。
香辛料の国インドでは北部のカシュミール地方でサフラン栽培が盛んに行われてきました。
インド料理では味付けされたご飯のプラーオに使われたり、ヨーグルトでつくられるお菓子にサフランが入れられたりしています。
トルコではオスマン帝国が栄えた時代からサフランは「ザフェラン」と呼ばれ、ピラフややはり菓子などに用いられてきました。
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日本でサフランを頻繁に使うという家庭は稀だと思いますが、少し検索してみたところ、通販ではスペイン産サフラン1グラムが約1000円、国内産のものが1グラム1200円弱 ほどの価格で販売されていました。
手に持った重さと値札を見比べて日頃買い物をしている一般庶民としては、1円硬貨と同じ重量で1000円以上の価格は高いと感じてしまいますが、サフランの価値は重さのない色と香りな訳で肉の買い物ではないのですから、重量と価格を見比べるのはやはり意味のないことなのでしょうね。
<参考書籍>
井上宏生(2002)『スパイス物語—大航海からカレーまで』集英社
吉田よし子(1988)『香辛料の民族学—カレーの木とワサビの木』中央公論社
石井美樹子 (1997)『中世の食卓から』筑摩書房
鈴木薫(2003)『世界の食文化 (9) トルコ』農山漁村文化協会
小磯千尋(2006)『世界の食文化〈8〉インド』農山漁村文化協会
<サフラン関連>
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