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2006/09/26

しょうがで羊が買えた時代

根しょうがの露地栽培では春に種しょうがが植えられ、秋には収穫が行われます。
今年に栽培と収穫が行われてすぐに店頭に並べられるしょうがは新しょうがとよばれます。
昨年収穫されて貯蔵されていたものが今年売られる場合、新しょうがと区別するために「古しょうが」とか「ひねしょうが」という呼び名になります。
新しょうがもひねしょうがも根しょうがのことなのです。
葉しょうが(谷中しょうが)も根しょうがと同じ種類のしょうがですが、根しょうがよりも早く収穫され、葉が付いた状態で出荷されます。(関連:「しょうがの甘酢漬け」)

家庭菜園でしょうがを栽培して、秋になって家では食べきれないほどしょうがが収穫できたというおうちもあるかもしれません。
家で栽培していなくてもスーパーなどに行けばしょうがはいつでも無造作に並べられています。
しかし昔のヨーロッパでしょうがは高級品として珍重されていました。

            ○

しょうがは熱帯アジアが原産ですが、熱帯アジアのどの地域かは特定されていません。
一説によればインドが原産地ではないかといわれています。
インド原産地説の根拠の一つになっているのがしょうがの名前です。
英語でしょうがは「ginger(ジンジャー)」ですが、この言葉は以下のように語源をさかのぼることができるといいます。

英語「ginger(ジンジャー)」→ フランス語「gingivre(ジンジブレ)」→ ラテン語「zingiberi(ジンジベリィ)」→ ギリシャ語「zingiberis(ジンジベリィズ)」→ サンスクリット語「singavera(シンカベラ)」→ ドラビダ語「inch ver(インチベル)」

サンスクリット語はインドの古典言語です。
そのサンスクリット語の「singavera(シンカベラ)」はもともと「角の形をしたもの」という意味の言葉ですが、この言葉がしょうがを指す言葉として使われました。
そしてこのサンスクリット語の「singavera」の語源がドラビダ語の「inch ver(インチベル)」だといわれているのです。
ドラビダ語はインド西岸のマラバール海岸地方に有史前に住んでいたドラビダ人が使った言語です。
しょうがを意味する世界の言葉の語源をたどっていくとマラバール海岸地方に行きつき、しかもこの地方では現在でもしょうがの生産が行われていることなどから、しょうがの原産地はインドではないかと考えられているのです。

           ○

しょうがはインドから中国に伝わりました。
中国にしょうがが伝播した当初は揚子江よりも南の地域で栽培が始まり、後に各地にしょうが栽培が広がっていったと考えられています。
マルコポーロが現在の江蘇省の蘇州や福建省を旅しているときに大量の高品質のしょうがが山に積まれているのを目撃しています。
ヨーロッパに比べ中国ではしょうがが格安で取引されていたことにマルコポーロは驚いたと東方見聞録に記されているのです。

            ○

胡椒が伝わる前の時代にしょうがはヨーロッパに持ち込まれ、香辛料の一つとして扱われました。
マルコポーロが中国でしょうがを見た13世紀はもちろんのこと、14世紀になってもヨーロッパにおけるしょうがは高価な香辛料として取引されていました。
450グラムのしょうがが羊一頭と同じ価格であったことが当時の記録に残されているほどです。
しょうがが山積みされ、しかもそれらが安価で取引されているのを見たマルコポーロの驚きも理解できます。

            ○

ヨーロッパとアメリカ大陸の間を商船が行き交うようになった時代に、しょうがは熱帯アメリカでも栽培され始めます。
乾燥させたしょうががアメリカ大陸からヨーロッパに輸送されるようになり、ヨーロッパでのしょうがの価格は庶民でも手が出せるほどに下がりました。

一説によると紀元前3000年頃に創られたといわれるジンジャーブレッドは、15世紀には高級菓子として貴族に好まれていましたが、16世紀にシェイクスピアによって書かれた劇の中には「ジンジャーブレッドが1ペニー」という台詞が出てきており、乾燥しょうががアメリカ大陸から輸入された頃を境にヨーロッパでのジンジャーブレッドも上流階級の菓子から庶民の菓子に変わったことが伺えます。

また、庶民でもしょうがが買える時代になったころ、乾燥しょうがの粉末をビールやノンアルコール飲料のエールに振り掛ける飲み物がイギリスの大衆酒場で作られるようになったとわれており、これがジンジャーエールの始まりだとされています。

<参考書籍>
高橋素子(2001)『Q&A 野菜の全疑問—八百屋さんも知らないその正体』講談社
井上宏生(2002)『スパイス物語—大航海からカレーまで』集英社
吉田よし子(1988)『香辛料の民族学—カレーの木とワサビの木』中央公論社

<しょうが関連>

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