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2006/09/28

納豆と納豆菌

納豆の作り方の基本は、煮た大豆を40℃以上の温度のもとに置いて、枯草菌(こそうきん)の一種である納豆菌を煮大豆に植え付けて繁殖させることにあります。

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昔はこの納豆菌を繁殖させるために稲の藁を利用していました。
稲藁一本には一千万個以上も納豆菌が付着しているためです。
もちろん、納豆が作られ始めた頃の日本人が納豆菌の存在や科学的な発酵のメカニズムを知っていたわけではありません。
最初に納豆ができたのも偶然からではないかと考えられており、それを示唆するような伝説もいくつか残されています。(関連:「納豆伝説」)

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日本の糸ひき納豆に似た食品は朝鮮半島や東南アジアでもみられ、東南アジアにはラワンやバナナの葉で煮大豆を包んで発酵させる方法があります。
東アジアや東南アジアから納豆作りが日本に伝播した可能性もありますが、納豆は日本が独自に開発した食品だとする説も多く唱えられており、納豆の発祥地は定かになっていません。

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奈良時代には、醤油や味噌作りのもとになる大豆麹を得るために煮大豆を稲藁の上に広げ、その上に更に藁をかぶせる方法がとられていました。
藁の中には麹菌も納豆菌もいるのですが、藁の中の温度が40℃以下のときは麹菌が繁殖し、40℃を越えると納豆菌が繁殖します。
温度計がない奈良時代には、藁の中の温度を知るには手で触った感じで測るしかありません。
藁と煮大豆で麹菌をつくるつもりが、失敗して藁の中の温度を上げすぎてしまったために納豆菌が繁殖してしまい、煮大豆が納豆菌によって発酵してしまったのが納豆の始まりだという説もあります。
大陸から納豆の作り方が伝わったのではなく、納豆は日本人によって創りだされたのだと、『食(く)あれば楽あり』などの著者で発酵の専門家である小泉武夫先生はいくつかの本の中で力説されています。

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ところで、納豆を食べることが庶民の間に普及したのは江戸時代になってからのことです。
江戸時代に売られていた納豆は今でいう挽き割り納豆に似ていて、包丁で納豆を叩いた「叩き納豆」というものが売られていました
行商の納豆売りが叩き納豆を担いで江戸の町中を売り歩きました。
この江戸時代の納豆売りは秋から冬にかけてみられる季節のものでした。
暑い炎天下で納豆を売り歩いていると高温のために発酵が進みすぎてしまうため、夏に納豆を売り歩くことはできなかったのです。
昔の納豆売りがどのような売り声で納豆を売り歩いていたかは、こちらの落語の『石返し』やこちらの『孝行糖』などのまくらの部分を聞いてみて下さい(本編もおもしろいです)。

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江戸で売られた納豆を作るときは、ざるに藁をしいてその上に煮大豆をのせ、その上にフタをするようにまた藁をのせて、これを地下に一晩置いて発酵させていました。
その作り方から「一夜納豆」とか「ざる納豆」という呼び名がつけられました。
江戸の町以外の関東や東北、京都、九州では煮大豆を藁苞で包んで発酵させるやり方が主流でした。

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地方で自家用の納豆がつくられる場合には、発酵温度の40℃を保つために色々な方法が用いられていました。
こたつや湯たんぽを使って藁苞に包んだ煮豆を温めたり、茨城の一部では地面にあけた穴の中で火を焚き、温度を上げた穴の中に煮豆が入った藁苞を入れて穴に土をかぶせてフタをする方法がとられていました。
岩手県では雪の中に藁苞が埋められたり、いくつかの地方には堆肥の中に藁苞を埋める方法などもありました。

明治時代になると旧江戸の東京でも藁苞を用いた納豆つくりが一般的になります。
また、この頃から、販売される納豆には辛子がつけられるようになったといいます。

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明治38(1905)年に、納豆が出すネバネバ粘る物質から納豆菌を取り出して培養することに東大の沢村誠博士が成功しています。
納豆菌は沸騰させた湯の中でも20分間は生き続けるため、稲の藁を20分弱煮出すと藁につく納豆菌以外の菌は死んでしまい、納豆菌だけを取り出すことができます。
藁を煮た液を細菌が繁殖できる環境に置くと、納豆菌だけを純粋培養できるのです。

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納豆菌が培養できるようになった後、人工的に培養した納豆菌で納豆を作る技術が開発されました。
そして、藁苞でつくった納豆の商品としての販売は禁止されてしまいます。
藁で包んで納豆を作る方法では納豆菌だけでなく雑菌も繁殖する恐れがあるためです。

現在商品として販売されている納豆は、雑菌が混じらないように培養した納豆菌を煮大豆に吹き付ける方法で作られており、これが滅菌された容器に詰められて売られているのです。

藁で包まれている納豆が店頭に置かれていることもありますが、あれもやはり純粋培養した納豆菌を煮大豆に植え付けて作られた納豆であり、藁は高温で殺菌された容器として使われているだけで、煮豆を藁苞に包んで発酵させたものではありません。

<参考書籍>
柳田友道(1991)『うま味の誕生—発酵食品物語』岩波書店
吉田豊(1995)『食卓の博物誌』丸善
吉田よし子(2000)『マメな豆の話—世界の豆食文化をたずねて』平凡社
小泉武夫(2005)『小泉武夫 食のワンダーランド』日本経済新聞社
小泉武夫(2000)『納豆の快楽』講談社

<納豆関連>

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