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2006/09/27

鮭とアイヌ

日本の沿岸で獲られる秋鮭の漁獲数は全体で6,000万尾程度で、その内の80%程度が北海道で獲られています。
その北海道を含む北方地方の先住民であるアイヌの言葉で夏の食べものを意味する「サクイベ」が鮭の語源だという説があります。
他の説では、アイヌの言葉で乾物にした魚を意味する「サットカム」が鮭の語源になったとされています。

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アイヌの言葉では「神の魚」を意味する「カムイチェ(カムイ=神、チェ=魚)」や、「本当の食べもの」という意味の「シペ」が鮭を指す言葉です。

アイヌ語で家屋は「チセ」といい、チセが5〜10戸集まった集落は「コタン」といいます。
アイヌは鮭が遡上する川の上流にコタンをつくり、鮭の産卵場所よりも上流にコタンができることはありませんでした。
アイヌの生活圏は鮭の産卵場所を中心に発展していったのです。

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本州でも鮭を獲るときのしきたりや風習が各地方にあり、それらに従って鮭は獲られましたが、鮭漁に関するアイヌの儀礼は厳格なものでした。
それは鮭がアイヌの生活や信仰に密接に関係していたことに因ります。

アイヌの伝説では、魚の神である「チェプ・アッテ・カムイ」が持つ袋の中に鮭は存在しており、魚の神がその袋の口を開けると鮭が川を登ってくるとされています。
もし人間が鮭に対する礼儀を失すると鮭は人間の非礼を神に訴え、魚の神は怒って二度と袋の口を開けなくなり、鮭は川を遡上しなくなるとアイヌの伝説は教えています。

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鮭が川の上流に登ってくる時期の前に、アイヌは「湾の神」や「河口の神」、「川の神」に祈り、川を汚さず不浄なものを入れないという誓いをたて、多くの鮭を川に登らせて下さいと神々に祈願します。

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鮭が登ってくる時期になると川岸に祭壇を設け、「アシ・チェ・ノミ」という新しい鮭を迎える儀式が行われます。(以下ではアシリチェップノミと表記)
この儀式では最初に川を登って来る鮭が神に供えられます。
このときに鮭を獲る漁具はマレという鉤銛(かぎもり)が使われ、マレクで鮭を川から引き揚げた後は、鮭を神に捧げる言葉を唱えつつ、柳やミズキで作られた飾りの付いたイサパキクニと呼ばれる棒で鮭の頭を叩きます。
川に最初に登ってきた鮭にこのように人間が対することで、アイヌの神は満足するのです。

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最初の鮭を迎える儀式が行われた後の漁期には、川中に杭を打って一個所作った出口から出てくる鮭を獲る漁や地引き網や刺し網を使った漁も行われました。
アイヌの漁法の中には犬を利用したものもあり、一匹の「漁犬」が一日に100匹近い鮭を獲ったといいます。

アイヌが鮭を獲った時は、カラスの分として鮭一匹を河原の砂利の上に置き、狐の分としてもう一匹を木陰に置く風習がありました。
そしてアイヌは自分たちに必要な分の鮭だけを獲り、決して獲りすぎることはありませんでした。

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産卵後の鮭は「ホッチャレ」と呼ばれます。
これは、産卵後の鮭は脂が抜けてしまって味が落ちるので誰も獲らずに「放っておく」ということから生まれた言葉だという説があります。
アイヌ語で「尻からばらまく」という意味の「ホ・チャリ」が語源になったという説もあるようです。

アイヌは産卵が終わった鮭のいわゆるホッチャレを干物にしていました。
産卵前の脂がのった鮭を干しても虫がわいたり脂が酸化してしまい保存性が低くなるのに対して、ホッチャレは脂が抜けているため乾燥させれば10年以上も保存できたといいます。
アイヌの一家族で600尾以上の鮭と700尾以上のマスを乾物にし、それらを高倉式倉庫に貯えていました。
アイヌが干し鮭を食べるときはこれを水につけて柔らかくして、アザラシや熊の脂をつかって山菜などと一緒に煮込んだりして料理しました。

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アイヌの慣習では、先に出てきた鮭が遡上する直前と最初の鮭が登ってきたときに行われる儀式と、更に鮭の産卵が終わったときに行われる鮭漁の終了を告げる儀式があり、これら三つの儀礼はアイヌにとって大事な神事でした。

しかし明治時代になり北海道は狩猟の場から農耕の地に変えられていきす。
アイヌは土地を取り上げられ、アイヌの伝統的漁法は明治政府により禁じられて、アイヌの風習も規制されてしまったのです。

その後、遡上してくる鮭を迎える祭事のアシリチェップノミは100年以上途絶えていましたが、1981年に札幌アイヌ文化協会などが中心となって復活されています。
今年も 9月18日に、復活してから25回目になるアシリチェップノミが行われ、秋鮭がアイヌの神にささげられました。

<参考書籍>
吉田豊(1995)『食卓の博物誌』丸善
末永徹 (2005)『食材はどこから』料理王国社
岸上伸啓(2005)『世界の食文化 (20) 極北』農山漁村文化協会

<アイヌ関連>

萱野茂のアイヌ語辞典 CD-ROM 萱野茂のアイヌ語辞典 CD-ROM

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アイヌのうた アイヌのうた
民族音楽 萱野茂・平取アイヌ文化保存会 貝澤あさの

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CDエクスプレス アイヌ語 CDエクスプレス アイヌ語
中川 裕 中本 ムツ子

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