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2006/09/07

ビビンバが具沢山なわけ

「ナムル」といえば韓国の野菜の和え物料理ですが、ナムルという言葉には食べることができる野菜や山菜、野草の総称としての意味もあります。
ナムルは漢字で「熱菜」と書き、この漢字が表す通り、ナムルにつかう野菜類は茹でたり炒めたり加熱してから和えられるのが普通です。 

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家庭でよく使われるナムルの材料にはわらびやぜんまいなどの山菜があります。
トラジという桔梗の根を使うこともあり、生のものだけでなく茹でてから乾燥させたものも使われます。
「トラジ」を検索して調べてみたところ、トラジのキムチ漬けが販売されており、価格は250gで1000円程度でした。

青物としてはほうれん草や春菊などが使われ、これらは茹でてから醤油やとうがらしで和えます。

ナムルで必ずと言っても良いくらい使われるものに緑豆や大豆のもやしがあります。
韓国でもやしは昔から食べられており、13世紀ころの文献に乾燥させたもやしを薬として用いていたことが記録されています。
現在の韓国でも、二日酔いのときにもやしスープを飲むと二日酔いの治りが早いといわれているようです。
1980年代に、このもやしの効能についての研究がソウル大学で行われ、もやしの茎には二日酔いに効く成分が実際に含まれていることが確認され、この成分を利用した薬が既に製品化されているといいます。

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ナムルを食べるときは、ねぎやにんにく、すりごまなどの薬味を多く使い、ごま油も加えられます。
皿に盛るときは三種類くらいを一緒に盛るのが一般的です。
一つはわらびやしいたけなどの茶色いもの、一つはほうれん草や春菊などの葉もの、そしてもう一つが白いもので、もやしやトラジ、だいこんなどが盛りつけられます。

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ナムルをご飯に載せると日本でいうところの「ビビンバ」になります。
本来は「ピビンパ」や「ピビ」の方が韓国語に近いようです。
韓国でビビンバを別名「骨董飯(コルトウバン)」ともいいます。
「ピビ」とは「混ぜた」という意味で、「パ」とは「ご飯」を意味します。
つまり韓国語の「ピビ」とは混ぜご飯のことなのですが、この料理にはもっと深い意味も込められています。

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ビビンバには野菜以外の炒めた牛肉や錦糸卵などの具材ものせられます。Kor_bibin これはビビンバを豪華においしくする意味ももちろんありますが、中国の「陰陽五行説」がビビンバに取り入れられたことにも因るのです。

「陰陽説」とは、陰と陽の二つの気が織り成すことで宇宙の万物は生まれるという考えで、「五行説」とは木、火、土、金、水の五元素の盛衰によって万物の状態も変化していくという考え方です。
これら二つの概念が合わさったものが古代中国の宇宙観である「陰陽五行説」という思想です。

この陰陽五行説は古くから朝鮮半島にも伝わっており、ビビンバにもこの陰陽五行説が五味五色で表されています。
五味とは甘、辛、酸、苦、鹹(塩辛い)で、五色は青、赤、黄、白、黒を指します。
各色に対応した代表的食材は以下の通りです。

黒:ゼンマイ、しいたけ、海苔、黒ごまなど。
白:もやし、トラジ、大根、くるみ、松の実、栗など。
赤:にんじん、味付け牛肉、ユッケ、ナツメなど。
青:ほうれん草、わかめ、きゅうり、銀杏など。
黄:かぼちゃや錦糸卵など。

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韓国ではご飯の上に載せられたこれらの具材とその下のご飯をよくかき混ぜて食べます。
スプーンでかき混ぜるのも本来の食べ方ではありません。
大きな鉢に50〜60人分のご飯をほぐし入れ、ここにごま油と塩を入れてからナムルを散らし、これらを手でよくほぐし混ぜてから一人づつ器にもってスープと一緒に食膳に出すのが伝統的な食べ方のようです。

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ビビンバの始まりについてはいくつかの説があります。
一説には、祖先を奉るお祭りのあとに参拝者に振る舞う料理としてビビンバは作り始められたといわれています。
儒教では先祖供養は大切な行事ですから、法事でふるまう料理もおろそかにできません。
とはいっても、家から離れたところでとり行われる行事にたくさんの食器や料理を持って行くのは大変なため、一つの器に様々なものを混ぜ入れたものを持って行って食べたのだといわれています。
祭祀(さいし)が行われる場所に食事を持って行くのは、神に近い場所で神と共に食事をする意味も含まれています。

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新年に古い食材を持ち越さないために、残ったものをご飯に混ぜて食べてしまったことからビビンバは始まったという説もあります。
日本の大晦日には多くの家庭でそばが食べられますが、韓国ではビビンバが食べられます。
大晦日に台所の残り物をビビンバにして全て食べてしまい、正月の朝には肉のスープに餅をいれた雑煮を食べたりするのです。

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農作業が共同で行われていた昔には、ビビンバはパガジとよばれる瓢箪でできた器に盛られ、作業の合間に食べられていました。
秋の稲刈りの時期には、作業をしている田の横を通る稲刈りとは関係のない人達にもビビンバが振る舞われたそうです。

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ところで、石焼ビビンバはごく最近できたものです。
器に使われる石材は朝鮮半島でとれるもので、昔からチゲ鍋などに使われてきた食器です。
この石焼ビビンバを考案した店の経営者が日本のバラエティー番組に出演していたことがあります。
確かこの店主は石焼ビビンバのお陰で一時的には商売を繁盛させたらしいのですが、特許を申請しなかったために他店に真似をされてしまい、石焼ビビンバで大金持ちになるチャンスをのがしてしまったのだと嘆いていました。
その後この店主は日本語で「石焼ビビンバ」を商標登録したようで、テレビでもこの認可証を見せていた記憶があります。
同じビビンバでも陰陽五行説とはかけ離れた世知辛い話しではあります。

<参考書籍>
鄭大声(2001)『焼肉は好きですか?』新潮社
黄慧性(2005)『韓国の食』平凡社
朝倉敏夫(2005)『世界の食文化〈1〉韓国』農山漁村文化協会

<韓国関連>

日本の食材でつくるチャングム・レシピ—韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」 日本の食材でつくるチャングム・レシピ—韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」
ハン ボンニョ ジョン キョンファ


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「チャングムの誓い」で学ぶ宮廷料理 DVD-BOX 「チャングムの誓い」で学ぶ宮廷料理 DVD-BOX
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スプラウト 鉄鋳物製ビビンバ鍋18cm H-7528 スプラウト 鉄鋳物製ビビンバ鍋18cm H-7528

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