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2006/08/28

かつお節と漁師の甚太郎

インドとスリランカの西南に位置するモルディブ諸島にはモルディヴ・フィッシュとよばれるかつお節に似た食材があります。
モルディブ・フィッシュは水分含有量が20%以上あり、ナイフで削ることができる程度に柔らかく日本の荒節に似たものです。
モルディブ・フィッシュと日本のかつお節の関係は定かになっていませんが、モルディブ・フィッシュが南方から日本に伝わったのではないかと推測している人達もいるようです。

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モルディブ・フィッシュが太古の日本に伝来したかどうかは謎ですが、日本でかつお節は鎌倉時代より以前には作られていたことが分かっています。
しかし当時のかつお節はかつおを蒸してから天日で干し固めて作られるだけのもので、生のものより保存性は高くても旨味は外ににじみ出てしまっていて、とても出汁を取る目的には使えない代物だったようです。

           ○

現在に伝わるかつお節の製法(関連:「かつお節の作り方」)が開発されたのは江戸時代のことです。
藁を燃やして乾燥させるだけだった昔ながらの製法を改良したのが、江戸時代に生きた甚太郎という名の紀州出身の漁師だったといわれています。
1674年に甚太郎がナラやカシの薪を焼いてかつおの切り身を燻し、冷やしてはまた燻す「燻乾法」を考案したのだという話しが残されています。
燻乾法でつかわれる燻煙によってかつお節の保存性は増し、魚の臭いも消す効果が得られました。

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更にかつお節の質を高めた技術が、やはり江戸時代中期頃から行われるようになった「カビ付け」です。
カビ付けは鰹節の表面に「鰹節菌」という人体に無害のカビを繁殖させ、かつお節内に残る水分を吸収させて節内の水分量を減じる作業です。
鰹節菌が分泌する酵素がかつおの脂を分解するため、この技術を使って作られるかつお節を出汁に使ってもだし汁に脂は浮きません。

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甚太郎が考案したとされる燻乾法とその後に開発されたカビ付け技術はかつお節を木材のように硬く仕上げて保存性を高め香りと旨味が増す画期的新技術で、一世紀の間にこれらの製法が日本全国に広まったといわれており、それ以降かつお節は出汁として多用されるようになります。

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燻乾法とかび付け技術開発以前、かつお節は「堅魚」とか「煮堅魚」などと書いて単に「かつお」と呼ばれていましたが、甚太郎の鰹節が出まわるようになってから「鰹節」の名がついたといわれています。
かつお節の語源ははっきりしませんが、「燻し」の「ぶし」をとってかつおぶしになったという説や、木のように節があることからかつおぶしになったという説もあるようです。

           ○

実は、燻乾法やカビ付け技術の開発経緯については確かな記録が残っている訳ではなく、漁師の甚太郎のこともなかば伝説的な話しとして残されています。
一説では、紀州で漁をしていた甚太郎が海難事故にあって土佐に流され、紀州で作られていたかつお節の製法を土佐に伝え、土佐のかつお節が全国的に有名になって燻乾法も日本中に広まったという話しになっています。
その他にも、土佐の播磨屋という店の宮尾佐之助が甚太郎のスポンサーとなって新式のかつお節の製法を開発させたという話しがあったり、カビつけ技術を開発したのはこの播磨屋の宮尾佐之助だったなどの言い伝えすらあるようです。

少なくとも甚太郎という伝説的漁師が生きたとされる江戸時代中期を境にかつお節の質が格段に向上したことは確かなようです。

<参考書籍>
柳田友道(1991)『うま味の誕生—発酵食品物語』岩波書店
マルハ広報室(2000)『お魚の常識非常識「なるほどふーん」雑学』講談社
江原 恵 (1986)『料理物語・考—江戸の味今昔』河出書房新社
小泉武夫(2005)『小泉武夫 食のワンダーランド』日本経済新聞社
服部 幸応 (2004)『大人の食育』日本放送出版協会

<鰹節・出汁関連>

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荒俣 宏

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