« ホットドッグとアメリカ人 | トップページ | 海苔とリサイクル技術 »

2006/08/31

くさやとくさや汁とくさや菌

くさやが作られ始めたのは八丈島であるとも、新島であるともいわれています。
くさや発祥地と考えられている八丈島や新島だけでなく、現在は、大島、式根島、三宅島、神津島など他の伊豆諸島や小笠原諸島でもくさやは生産されています。

            ○

くさやの原料には脂の少ない魚が向くとされており、伊豆諸島近海で獲れるトビウオ、ムロアジ、クサヤムロなどが使われています。
地元では、自分の家で食べるくさやにはブダイやサメ、時期が過ぎて脂が落ちたさんまなどが使われたといいます。

            ○

くさやの作り方は、まず材料となる魚を開き内臓を取り除きます。
昔はくさやの加工場から出る魚のアラは豚の餌にされて、魚は余すところなく使われました。
開いた魚を少しとろみがあって茶色い「くさや汁(くさや液)」に漬けます。
魚をくさや汁に浸けて暫くすると魚の身に塩分が入り込み、比重が変化することで魚はくさや汁の表面に浮き上がってきます。
くさや汁には10〜24時間程度つけ込み、その後天日に干して完成です。

            ○

くさや作りがいつ頃始まったのか定かではありませんが、江戸時代中期以降のことだと考えられています。
江戸時代の伊豆諸島は幕府の直轄地であり、新島などは流刑地でもありました。
耕地が少なく漁業を生活の糧としていたため、元禄の頃まで年貢は米ではなく塩で納めていました。
そのため自分たちが使う塩にもこと欠くほどで、年貢の塩を確保するために塩を節約せねばならず、魚の塩干しを作るときに使う塩水を捨てずに繰り返し使うようになったのです。
繰り返し使われた塩水の中には魚のタンパク質が溶け出して発酵し、これが後にくさや汁と呼ばれるくさやを作るときに欠かせない浸け汁となりました。
くさや汁に浸けて作った魚の干物は普通の塩水に浸けて干したものより長期間保存できることを当時の伊豆諸島の人達は経験的に知りました。
海が少し荒れると船が出せなくなる時代に、保存期間を延ばせるくさやの技法は島の人達にとっては生活を支える画期的な新技術だったのです。

            ○

江戸の市場でくさやは他の干物よりもランクが下で、現在のように酒の肴として珍重されてはいませんでした。
1829年の江戸の記録には、伊豆諸島から送られたくさやのことが単に「干し魚」と記されており、「くさや」の呼び名は明治時代になってからできたといわれています。
焼いた時のに匂いがとても臭いことから明治時代の東京でくさやと呼ばれはじめたのが語源になったといわれています。
昔の新島ではくさやを「しょっちるぼし」とよんでいたようです。
「しょっちる」は秋田の「しょっつる」と同様に塩汁のことを意味しました。

            ○

現在のくさやの老舗店には300年以上も使われ続けているくさや汁があり、大きな店の地下には100年以上も熟成を重ねたくさや汁が10トン以上も貯蔵されているそうです。

同じくさや汁を連続して使うとくさやができなくなるので、何回か使用したくさや汁は暫く休ませる必要があります。
暫く使わなかったくさや汁には新しい魚の切り身を入れて栄養が補給されます。
このように維持管理され長期間使われ続けるくさや汁は古いものほど干物の旨味がよく出るといわれています。

            ○

くさや汁にはコリネバクテリウム・クサヤ(通称くさや菌)という乳酸菌の一種が繁殖しており、くさや菌が発酵を起こすことで魚の中に含まれるタンパク質や脂質が分解されます。
臭いの素となるアンモニアや硫黄化合物、油状の液体で強い臭いの酪酸などもくさや菌によって作られます。
くさや菌は繁殖力が強く雑菌を寄せ付けません。
そのため、くさや汁は腐敗せずに長期間保存することができるのです。

            ○

くさやの生産地ではお腹の具合が悪くなったときに、くさや汁をぬるま湯で薄めて整腸剤の代わりに飲んでいたこともあるようです。
乳酸菌の一種のくさや菌を体内に取り入れ、腸内の雑菌などを排除するのです。
また、乳酸菌が腸内でつくるビタミンも体調回復に役立ちます。
江戸時代の人はお腹の調子が悪くなると、同様に糠味噌をぬるま湯に溶いて飲んだといいます。

            ○

明治時代の新島地方の嫁入りでは、家のくさや汁を嫁ぐ娘に持たせることもあったといいます。
かつて地方によっては、嫁入りの娘に一つかみの糠を持たせるという習慣がありました。
モンゴルでも娘が嫁ぐ時に羊の発酵乳を一杯持たせ、相手方の発酵乳の容器に入れる習慣があるといいます。
発酵食品が生活に根付いている地域での似通った婚礼習慣です。

<参考書籍>
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
マルハ広報室(2000)『お魚の常識非常識「なるほどふーん」雑学』講談社
吉田豊(1995)『食卓の博物誌』丸善
小泉武夫 (2000)『漬け物大全—美味・珍味・怪味を食べ歩く』平凡社
小長谷有紀(2005)『世界の食文化 (3) モンゴル』農山漁村文化協会

<珍味・焼物関連>

ごくらくちんみ ごくらくちんみ
杉浦 日向子

by G-Tools
キャプテンスタッグ(CAPTAIN STAG) 遠赤炭火風卓上ガス網焼きコンロ M-6350 キャプテンスタッグ(CAPTAIN STAG) 遠赤炭火風卓上ガス網焼きコンロ M-6350

by G-Tools
煙を抑える魚網焼き器 味王 煙を抑える魚網焼き器 味王

by G-Tools

|

« ホットドッグとアメリカ人 | トップページ | 海苔とリサイクル技術 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/62471/12035647

この記事へのトラックバック一覧です: くさやとくさや汁とくさや菌:

« ホットドッグとアメリカ人 | トップページ | 海苔とリサイクル技術 »