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2006/08/18

からすみ親子

からすみの名産地の長崎では「からすみ親子」という言い方があるそうです。
これは「鳶が鷹を生む」と同じで「平凡な親から非凡な子が生まれる」ことの喩えです。

ボラが「平凡な親」の喩えにされるのは、ボラの卵を原料とするからすみが高価な珍味として扱われるのに、親の方のボラの身は臭みがあっておいしくないという思い込みがあるからでしょう。
たしかに、ボラは微生物を食べるために、川底に溜る生物の遺体や排泄物を泥と一緒に取り込んでしまうため、水底が汚れているとボラの身は臭くなってしまいます。
ボラの若魚は暖かい季節に河口近くまでやってくるのですが、この身は特に泥臭いといわれます。

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ボラは出世魚で、ハク→オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トドと成長するにつれ名が変わります。
老成魚のトドが「とどのつまり」の由来だと一般的にはいわれており、世間知らずを意味する「おぼこ」という言葉はボラの稚魚の名前のオボコが語源になっているといわれています。

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ボラは生まれてから2〜3年は内湾で過ごしますが、4歳くらいの秋になると産卵のために外海に出て行きます。
外洋に出ると臭みが薄れるため、産卵期の1〜2月のボラは寒ボラと呼ばれおいしいとされます。
ボラの目は脂瞼という膜で覆われており、冬期にはこの脂肪の膜は厚さを増すのですが、目が潤んで見えるほど脂質が厚くなっているものの方が味が良いとされています。
ボラは刺身やあらい、塩焼き、バター焼き、味噌汁などにして食べられます。

ボラが食べる泥の中に含まれる有機物の影響でボラの胃壁は発達しており、胃の出口付近が固い塊のようになっています。
この塊の形が算盤(そろばん)の玉に似ていることから「ソロバン玉」と呼ばれ、塩焼きにするとコリコリとした食感が楽しめる珍味中の珍味として扱われています。

台湾ではボラの胃を乾燥させたものが食べられますが、これはガムのように弾力があるそうです。

名古屋には、ボラの内臓を取り除き、空いた隙間に具を詰めて焼く「イナまんじゅう」という料理などもあります。

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カラスミボラと呼ばれる産卵期をむかえた4歳のボラは群れとなって長崎県の野母崎(のもざき)(左の地図マークの辺り)の沖を回遊して産卵場所に向かいます。この頃に取られるボラの卵巣の質は最高だとされています。 国内では和歌山や静岡、高知などでもからすみはつくられています。 最近はエジプトやオーストラリアからも輸入されていますが、最高な時期にとれた卵巣を使う長崎野母崎産からすみは別格扱いで、その中でも左右対称のからすみは特に上物として扱われます。

野母崎にはからすみの語源についての言い伝えがあります。 1588年に、当時は単に「ボラの真子」とよばれていたからすみを、長崎代官が長崎名産として豊臣秀吉に献上しました。 秀吉はこれを気に入り、代官にこの珍味の名を聞きました。 「ボラの真子」では面白みがないので何か気の利いた名前はないかと代官は思案し、「唐の墨」に似ていることから「からすみ」という食べものですと答えたといいます。それ以来からすみの名が使われるようになったという話しがあるそうです。

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江戸時代の野母崎は、九州地方の大名の参勤交代時の献納品を運搬するための寄港地として使われ賑わいました。
野母崎を利用する商人や大名から大量のからすみの需要があったため、長崎奉行の大事な仕事の一つはからすみの確保と管理だったといいます。
その頃から、越前のうにや三河のこのわたと並んで、からすみは三大珍味の一つとされていたのです。

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からすみを製造するときは、まず雌のボラの腹が特殊な包丁で開かれ、卵巣が傷つかないように取り出されます。
取り出された卵巣は水で洗われてから、表面に塩がすり込まれ、その後一週間ほど塩に漬け込まれます。
それから、水に7〜8時間程度浸けられて塩が抜かれてから板に並べられ、重しで軽く圧力を掛けられたり形が整えられたりしながら寒風と天日の下で10日間ほど乾かされて完成します。

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台湾ではボラを烏魚(ウーユイ)といい、からすみを烏魚子(ウーユイツー)といいます。
福建省や広東省の中国人が高雄の辺りに漁に行き、一部の漁師達がそこに住みついたときにボラとからすみが台湾に伝わったとされています。
台湾のからすみは日本のように高級品扱いされず、屋台で売られるビーフンにもからすみが入れられたりするようで、これはイタリア料理でパスタに粉末からすみを入れるのと同様に調味料のようにして使われているわけです。
からすみを火で炙ってからスライスしてにんにくや大根の薄切りと一緒に食べたりもしますが、これは正月によく食べられるようです。

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イタリアのシチリア島では、薄皮を破らないように取り出されたマグロの卵に塩を染み込ませ、重しがのせられて更に塩漬けにされ、その後風通しの良いところで乾燥されたものが作られており、これがブータルグと呼ばれています。
マグロの卵のブータルグは最終的には四角く形が整えられ重さは7キロになるといいます。
ボラの卵を使った同様の製法でつくられるもの、つまりはからすみ状のものは、イタリアのサルデーニャ島、フランス領のコルシカ島、チュニジア、エジプト、トルコなどで作られており、スライスしてオイルや酢、コショウをかけて食べられています。

<参考書籍>

講談社(2002)『カラー完全版 魚の目利き食通事典 』講談社
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
岩井保 (2002)『旬の魚はなぜうまい』岩波書店
周 達生 (1994)『中国食探検—食の文化人類学』平凡社
小泉武夫 (2000)『漬け物大全—美味・珍味・怪味を食べ歩く』平凡社
スー シェパード(2001)『保存食品開発物語 』文藝春秋

<酒の肴関連>


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