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2006/08/04

アナゴと江戸前

アナゴは一年中獲れますが、夏場に大量に獲れることから旬は夏とされています。
アナゴを選ぶ時には体表にヌメリがあるものがよく、開いたものを選ぶときは身が厚くついて血液が真っ赤なものが味のよいものです。
しかし食べ過ぎで太っているものは腹から腐るのが早いと言われています。
太めのアナゴを選ぶのであれば下半身の身が旨く、細いものだったら上半身の味が良いとされています。

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アナゴといえば「江戸前の穴子」が有名ですが、「江戸前の海」とはもともと「江戸城の前の海」のことを指しました。
しかし、江戸時代にも「江戸前」の範囲は明確になっていなかったことが当時の記録から分かっています。
江戸時代の何人かの漁師が奉行所に漁業権に関する訴状を何度か提出していますが、それらには異なった範囲で「江戸前」の定義がされています。
江戸前の海はそこに面したいくつかの村で共用されていましたから、範囲の定義が認められるかどうかは江戸前の魚の漁業権を獲得できるかどうかに関わる大問題だったのです。

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このように江戸時代にも問題になった「江戸前」の範囲ですが、2005年になって水産庁の「豊かな東京湾再生検討委員会食文化分科会」(小泉武夫会長)が「江戸前とは東京湾全体を指す」と定義しました。
これは歴史上最も広い範囲を指す「江戸前」の定義になるのでしょうが、本来の「江戸前」の海域で今は漁が行われていませんので、魚を獲っていない場所を「江戸前」と呼んでも仕方がなく、現在の漁場を網羅するには東京湾一帯に江戸前の範囲を広げなければならなかったという訳があったようです。

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それだけ範囲を広げても近頃市場で流通するアナゴで江戸前のものは少なくなっています。
国産アナゴ自体が最近は少なくなり韓国産が多く出まわっていますが、国産のものより味は落ちるといわれます。
韓国産アナゴは魚体がくすみ光沢がなくて皮が固そうに見えます。

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ところで穴子の人気料理といえばやはりにぎり寿司でしょう。
寿司職人の間では、握る前にネタに手を加えることを「仕事をする」といい、この仕事を必要とするネタを食べるとその店のレベルが分かるといわれています。
そして穴子も「仕事」に手間が掛かるネタの一つです。

穴子は生では食べられないので煮たものを握りますが、穴子を煮るときに酒を入れないで煮ると冷めてから穴子のゼラチン質が固まり、握るときに穴子の身が崩れ易くなります。
穴子の握り寿司を食べた感想で「握る直前にアナゴをサッと炙っており手が込んでいる」という寸評を目にしたりしますが、穴子が柔らかく煮られて身を固くしないように置かれているならば、握る前の一炙りは必要ないのだという意見もあります。

穴子などにつかう「ツメ」は穴子などを煮た後の煮汁を濾してから砂糖、醤油、味醂、酒を加え、穴子の骨などと一緒に煮詰めたものです。
真新しい煮汁で穴子を煮ると穴子の脂が煮汁に溶け出して身がパサついてしまうため、脂の混じった煮汁が濾されて何度も使われます。
ツメをつくるにはコトコトと時間を掛けて煮詰める必要があります。
時間を短縮するために片栗粉を入れて手抜きをする店もありますが、これでは食感が悪くなりツメを冷蔵保存する間に水っぽくなって味は落ちてしまいます。

<参考書籍>
セマーナ(2002)『スーパーで買える魚図鑑—これであなたもサカナ通!』日本文芸社
講談社(2002)『カラー完全版 魚の目利き食通事典  』講談社
月刊食生活編集部(1992)『グルメのおもしろ語源集—食べものふしぎ博物館』コア出版
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
マルハ広報室(2000)『お魚の常識非常識「なるほどふーん」雑学』講談社
成瀬宇平 (2003)『すしの蘊蓄 旨さの秘密』講談社
旅の文化研究所 (2000)『落語にみる江戸の食文化』河出書房新社

<すし・穴子関連>

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