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2006/08/11

鮑(あわび)はパワーの象徴

鮑(あわび)と日本人の結びつきは古来から続いてきたものです。
縄文時代の貝塚から鮑の貝殻が発掘されたり、弥生時代の日本人の風習を伝える『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』には日本人は鮑を好むと記されたりもしました。
804年頃の伊勢神宮の最古の儀式記録にも鮑が奉納されたという記述があります。
武士の時代になっても鮑は不老不死の象徴として出陣や帰陣の際の祝いの食膳に出されたりしました。
古代から日本人は鮑を食べるだけでなく、鮑には特別なパワーが秘められていると考え、神仏に供えたり儀式に使ったりしてきたのです。

          ○

祝儀で使われる「熨斗(のし)」とはもともと熨斗鮑(のしあわび)のことを指しました。
熨斗鮑とはあわびをごく薄くスライスして伸ばして乾燥させたもので、「伸ばす」ということが「末永く続く」ということにつながり、お祝い事の進物に熨斗をつけるようになったといわれています。Noshi

平安時代に残された文献の『延喜式(えんぎしき)』の中にも朝廷への貢ぎ物として熨斗が記録されており、この頃から熨斗は存在していたことが分かっています。

ただし、現在一般的には熨斗と言っても鮑は使われず印刷か熨斗を模した代用品が使われています。
家にあった祝儀袋をスキャンしてみました。真ん中の黄色く長細いものが熨斗鮑を模したものです。(画像をクリックすると拡大します)

          ○

鮑は片思いの恋の喩えとして和歌などにも詠まれてきました。
鮑は巻貝なのですが、まるで二枚貝が割れてしまったような外見をしていることから片思いの象徴とされ、歌の中で隠喩的に使われたのです。

 伊勢のあまの 朝な夕なに 潜(かづ)くとふ 
  鮑(あわび)の貝の 片思(かたも)ひにして
            『万葉集』詠み人しらず

          ○

このような歌が詠まれたからか、寿司職人の隠語ではあわびを「片思い」と呼びます。
寿司職人用語では、鮑の貝殻につく筋肉を「ホシ」、身のざらざらした部分は「ミミ」、外套幕(がいとうまく)は「ヒモ」、内臓を「ワタ」と言い表します。

          ○

日本近海で食用になる鮑にはメガイアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、エゾアワビの4種類があります。
クロアワビは生息数が減少していることもあり、この中でも特に高級品として扱われています。
クロアワビの北方系の鮑がエゾアワビであることから、北海道で獲ったエゾアワビを暖流の海域に移して養殖することも行われています。
マダカアワビは秋が旬ですが、クロアワビなどは夏の今が旬です。

<参考書籍>
月刊食生活編集部(1992)『グルメのおもしろ語源集—食べものふしぎ博物館』コア出版
高橋素子(2003)『Q&A 食べる魚の全疑問—魚屋さんもビックリその正体』講談社
マルハ広報室(2000)『お魚の常識非常識「なるほどふーん」雑学』講談社
末永徹 (2005)『食材はどこから』料理王国社

<鮑関連>

五代目 古今亭志ん生(1)火焔太鼓(1)/品川心中/鮑のし 五代目 古今亭志ん生(1)火焔太鼓(1)/品川心中/鮑のし
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祝儀袋・不祝儀袋 表書きのマナー 祝儀袋・不祝儀袋 表書きのマナー
岩下 宣子

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